「ね」が好きな女の子

 普段からさりげなく、めがねを「ねがね」、歴史を「ねきし」と言っている。
 幼い頃から歴史好きで、なぜかというとひたすら固有名詞が出てくるからである。「とくがわいえやす」と発音しなければならない時には、さりげなく「とくがわいねやす」と言っている。同様に「おだのぶねが」「とよとみひねよし」と読んでいる。「ローマ帝国」は「ローマねいこく」、「香川県」は「かがわねん」と読む。
 誰にも見えない飴玉を、いつまでもしゃぶり続けるように「ね」を深く愛している。
 好きな漢字は「根」。根を張るように、しっかりと力強く生きていきたいです、と学校でスピーチする。
 友達が「バイバーイ」と言っても「バイバーイ」とは返さない。「ね」を入れたいので「じゃあねー」と言って済ませる。
 猫につける名前は「イネ」「タネ」「ヨネ」など、常にお婆さんめいた名前になる。
 休日には、平仮名の「ね」の形をしたクッキーを焼くこともある。作りたくなってくるので自然に作り、そして誰にも渡せないので困る。
 幼稚園のとき「サンタクロース様、どうか『ね』のつくプレゼントを下さい」と心の中でお願いしたのだが、枕元にあったのはお人形だった。それ以来、親にも周囲にも期待をしないで生きるようになった。
 地名で「ね」のつく所に住みたいと願っている。「練馬区」「ネブラスカ州」のように、最初に「ね」がつかなくても、途中に沢山「ね」がついてほしい。たとえば「アネモネ」のように、ねが二回も出てくるような地名はないものか、と悩んでいる。
 ねのつく苗字の人が羨ましく、そうした苗字を自分のものにするために結婚したいと考えている。
「ね」のためなら、いつでもこの命を捧げる覚悟です!と心ひそかに思っているのだが、誰からもそのような要求をされない。今までも、そして今後も。

クの子供たち

 まだ幼いクの子供たちが整列し、行進していると、

     クククククク々ククク

 何やら一人だけ、毛色の違う子が混じっていた。

 ク「おい、お前だけなんだかヨタヨタしていて、動きが鈍いぞ!ククク……」
 々「引きずってしまうんだよ。この、下の方のストッパーが邪魔になってね……」
 ク「ストッパーなんて意味ないだろ?付けてどうするんだよ」
 々「ま、最近その、そういうのが流行してるからね……NYとかでね……」
 ク「お前あれだろ?複雑骨折かなんかしちゃって、固まったら変な風になっちゃってるやつ?ククク……」
 々「ちっ違うよ!こうやって、前に、進む、こと、が、で、」
 ク「無理すんなって!じゃあな!ククク……」

   クククククククク……      々

 すっかり置いていかれてしまった。
 あざ笑いながら去ってゆくクらの背中を見つめる々の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 久「あっ、お前!」
 々「はい?」
 久「こんな所で何やってんの?」
 々「えっ?」
 久「おいおい!俺だよ、俺!」
 々「ええと、その……」
 久「お前の父ちゃんだよ!久しぶりだからって、忘れたのか?」
 々「お父さん?そういえば格好が……」
 久「そっくりだろ?親子なんだから、そりゃ似てるって!」
 々「本当に、お父さん?」
 久「そうだとも!」
 々「お父さんだ!」
 久「息子よ!実は相談したいことがあるのだ!」
 々「何?」
 久「ちょっと金を貸してくれないか?」
 々「ないよ!子供なんだから持ってないって!」
 久「それならもう、親でも子でもないわ!あばよ!」

 久は言うが早いか、走り去っていった。

 々「何だよまったく……怪しいなあ」
 タ「あらっ?お前?お前かい?」
 々「はい?」
 タ「はい?じゃないよ。こんなにそっくりなおっ母さんのこと、忘れちまっタのかい?」
 々「またその手口かよ!誰が信じるか!」
 タ「無理もないね……。文字の成長は人間の一億倍……。生まれタばかりの可愛いお前を、クの群れに置き去りにして行かざるを得なかっタ、おっ母さんをどうか許しておくれ」
 々「え?本当に?」
 タ「嘘を言うもんですか!それとも、タっタひとりのおっ母さんの言葉を、信じられないとでも言うのかい?」
 々「でも、格好が似てないし……」
 タ「そうやって、疑いの目つきでおっ母さんを見ても……、何も解決なんかしやしないよ!」
 々「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
 タ「気合を入れて、ターッ!って言ってごらん!タになれるから!」
 々「……ター」
 タ「それじゃ、少しも気合いが入ってないんだよ!もっと本気でおやり!」
 々「ター!」
 タ「そうそう、その十倍くらいの声を出してみな!」
 々「ターーーッ!」
 タ「もっとだよ!腹の底から、百億倍の声を出してみな!」
 々「ターーーーーーーーーーーッ!!!」

 その時、々の体が光に包まれ、輝き始めタ!

 タ「あれ?どうやらタになっタらしいぞ?」
 タ「おめでとう!ついにあんタも、タの仲間入りだよ!おっ母さんも鼻が高いよ!」
 タ「やっター!これで僕も一人前かな?」

 すると、向こうからタタタタタ……、と仲間タちが駆け寄ってきタ。

 タ「お前、とうとうやりやがっタな!」
 タ「あ、有難う!タ同士、よろしく!」
 タ「こっちこそ、よろしくだぜ!なあ、みんな!」
 タ「おう!」
 タ「ヒューヒュー!」
 タ「お前、すげェよな!」

 タは、大勢のタらに囲まれて拍手喝采を浴びた。

 タ「お前、本当にすごいぜ!」
 タ「そうかな……、それほどでも……」
 タ「いや、俺たちは、もともとクの子供だっタんだけどさ。タに憧れてタんだぜ」
 タ「そうだっタのか!」

 タは驚いタ。

 タ「一列に並んで、歩いて市役所まで行って、ズラーッと申請手続きに並んでさ、やっと棒を一本ずつ支給されて、それでやっとタになれタって訳よ」
 タ「そういう手続きの列だっタんだ?」
 タ「あせって棒を後ろにくっ付けちまってさ、最終的に漢字の久になっタみてえな、恥ずかしい奴までいたぜ……」
 タ「……まあ、色々あるんだな……」
 タ「中にゃ間違って、前髪を切っちまって、とうとうフにまで堕ちてっタ奴もいたっけな……」
 タ「そういう奴もいるってことか……」
 タ「お前のストッパーのこと……、あん時ゃ馬鹿にしてご免な。許してくれよ」
 タ「構わねえよ、ちっとも気にしちゃいねえぜ……」
 タ「お前、自力で自分の一部を伸ばしてタになっタなんて、大しタもんだぜ。根本的に気合いが違うよな」
 タ「いやいや、過去のことは水に流して、これから仲良くやっていこうぜ!」
 タ「そういえば、あのNYで流行してるとかいう、ストッパーの部分は?」
 タ「ああ、あれか?今じゃググッと、この胸のあたりに入ってるって寸法だぜ!」
 タ「すげえな!兄貴って呼ばせてくれよ!一生ついていくぜ!」
 タ「おう、俺は成長が早いからな……、振り落とされるなよ?」
 タ「おー!」

 こうして皆で元気よく、タタタタタタタ……と駆けていっタのである。
 あしタに向かってか、夕日に向かってか、作者にはよく分からないが、とにかく駆けていっタ。
 当初 「醜いアヒルの子」風の感動をお届けする予定で書き始めタつもりが、こういう結末になってしまっタ。

 教訓:創作は思い通りにはいかない

コロンブスの帰還

 アメリカ大陸を発見したとされるコロンブス自身は、かの地をインドだと思い込んでいた。その上、帰り道がまったくわからなかった。
 そして実は、船の向きが逆になっただけで北も南もわからなくなるほどの方向音痴で、かなりの重症であった。
 ごまかすにしても限度があると気づいてはいたものの、なるべく船の向きを変えないようにして航海を続けた。失敗が続けば続くほど、意固地になって突き進む性格だったのである。
 船員たちも馬鹿ではないので薄々は怪しみつつ、手柄を立てたコロンブス船長には従った。かくして、船はアメリカ大陸をおっかなびっくり探るように南下していった。

やがて、「謎のバミューダ三角海域」として後世の人々からは怖れられる海域にたどり着いた。

「ミュウ。コンニチハ」
「何だ?海が急に喋り始めたぞ?」
「おい、船長を呼んでこい!」 

 当時、三角海域は産まれたてのホヤホヤで、天気によっては四角形や六角形になる日もあり、海面にはまだ湯気が立っており、子猫のような声で鳴いていた。

「ミュウミュウ。君タチハ、ドコニ行キタイノカナ?」
「我々は、まだ見ぬ未知の大陸を目指しているのだ」
「ソレナラ、モット西ノ方ダヨ。ミュウ」
「あと、どのくらい航海すれば到着するのだ」
「大丈夫、僕ガ放リ投ゲテアゲルヨ。ミュウ」

 三角海域は、時間と空間を調整する術をまだ使い慣れていなかった。船を未知の大陸まで到達させるには力が足りず、太平洋の真ん中に船を飛ばしてしまったのである。
「陸地がどこにも見当たらないぞ!」
 気づいてから叫んでも遅かった。

 コロンブスを乗せた船は数年がかりで太平洋を漂流し、原稿用紙換算で七千五百枚分もの悲惨な過程を経て、命からがらやっと三角海域まで戻ってきた。

「お前のせいだ!」
「責任を取れ!」

 コロンブスは勿論のこと、半数になった船員たちも三角海域を責めた。
 今やすっかり一人前に成長した三角海域は、ミステリアスな口調で応じた。

「未知の大陸を目指しているというから、親切心で途中まで飛ばしてやったのであるぞ」

 たまった鬱憤を晴らす勢いで、コロンブスとその一行は罵倒の言葉を浴びせかける。

「うるさい!時間と手間を返せ!」
「死んだ仲間たちを返せ!」
「いい加減な場所に飛ばしやがって!」
「金で賠償しろ!」
「人殺し!」
「たかが海域の分際で!」
「食糧をよこせ!」
 バミューダ三角海域はとうとう怒った。
「何という恩知らずどもであるか。ならば、お前たちの故郷に送り戻してやろう!」

 海面を揺らしてそう叫ぶと、アメリカ大陸上空コースへと船を放り投げて、ついでに時間も調整して少しばかり戻してやった。
 コロンブスたちの乗った船は大きな弧を空に描き、出発地スペインの大地に舳先から刺さるように落ちて、見事に着地した。
 先が少し割れたものの、うまく目的地に到着して怪我人が一人も出なかったのだから三角海域も腕を上げたものである。結局、強運のコロンブスは方向音痴の件をうやむやにして、帰還に成功した。

 後のコロンブスが、卵の殻を割って強引に立たせてみせたのは、この時の経験から得た知恵であろう。

七月は創作ばかり

小噺みたいな小説を書いて「カクヨム」に置いても、一定期間を過ぎると読まれなくなってしまうので、勿体ない。そこで、こちらのブログに少し移しておくことにしました。

「バカバカしい!」

「テーマがない!」

「作者からのメッセージがない!」

「ふざけるな!」

「頭がおかしいのか!」

といった感想を持たれるかもしれませんが、自分で読み返してみても「この人、何なんだろう?」と感じることが割とあるので、少しもおかしな反応ではありません。

 

はてなスター1つ……そこそこ、まあまあ

はてなスター2つ……面白い、よい、秀作

はてなスター3つ……とても面白い、たいへんよい

 

といった感じでお願いします。

一文日記:最近はブコメも一文で済ませています

 

みんなちょっとたのしい話しよう

Sonny Rollins の「St. Thomas」は超有名で何度も聴いたので今さら聴いてもなあ……、と思っていたが、あらためて聴くと、とても素晴らしくてちょっとたのしい。<a href="http://musisch.com/2013/02/16/sonny-rollins/" target="_blank" rel="noopener nofollow">http://musisch.com/2013/02/16/sonny-rollins/

2018/06/27 15:20

 

www.youtube.com

 

サキソフォン・コロッサス

サキソフォン・コロッサス

 

一文日記:お散歩ビンゴ

お散歩ビンゴという商品を発見したので、お年寄りに何かプレゼントしたい時や快気祝いなどに使うことにします。

 

一文日記:アマゾンのふりをした詐欺メール

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さすがにここまで変な「ご利用いただきありがとうございますが、」なんていう日本語をアマゾンの人は使わないと思います。