塚本邦雄「黄金律」の平易な短歌 ベスト10

 

 

塚本邦雄の短歌は難解で晦渋で、さらに旧字旧仮名表記という障壁があって、歌集のタイトルも厳めしいので、その雰囲気だけで敬遠している人が多いのではないだろうか。

しかし、実際は一読してすぐに意味のわかる作品、ユーモラスな作品もかなりあるので「続・塚本邦雄歌集」収録の歌集「黄金律」から親しみやすい平易な十首を選んでみた。

まずは第十位!

 

百年後のわれはそよかぜ地球儀の南極に風邪の息吹きかけて

 

地球儀にフーッと息を吹きかけている!

実は、こういう茶目っ気があるのが塚本邦雄の面白い所なのだが、そこを分かってほしい!

 

 

続いて第九位!

 

母てふはははと笑ひて立ちつくす冬の芒のごとき女人ぞ

 

母というものは「はは」と笑うものなのだと言っている!

ダジャレか!

 

 

次は第八位!

 

詩人たることはさておきボクサー犬カタログに選るひとときの夏

 

自分自身の詩業、詩歴の全てを「それはさておき」と脇に退けてしまった!

そんな夏のひとときだ!

 

 

続いて第七位!

 

われ死して三世紀後の獣園に象はくれなゐ蠍はみどり

 

先ほどは百年後のそよかぜになっていたが、今度は三世紀後の獣園の話題だ!

くれなゐの象!!

みどりの蠍!!

意味もなく興奮させてくれる格好よさだ!

 

 

次は第六位!

 

美男拳銃強盗一人ひそみゐる群馬縣そのあたりあかるし

 

群馬縣が急にドラマチックな場所に生まれ変わっている!

ちなみに、これが醜男だったら、そのあたりは暗し!

 

 

続いて、ベスト5の第五位は!

 

新緑したたれる幼稚園かれらさへ生きてゐる振りが身についてきた

 

ガキどもすら、生きている振りをしていやがる……、

という知的な発見だ!

 

 

 

第四位!

 

殺したい奴が三人ゐて愉しとりかぶと群青の十月

 

「殺したい奴」という冒頭の言葉がわかりやすい!

「が三人ゐて」という具体的な数もいい!

この物騒な空気感が愉し!

 

 

 

いよいよ第三位は!

 

銀冠の犬歯ぎらりと女衒なり女衒てふ言葉ゆめ知らざらむ

 

「女衒」という言葉を知らず、読めず、書けないにもかかわらず女衒だ!

銀冠というと将棋用語風だが、それとは関係なし!

 

 

 

続いて第二位!

 

愛犬ウリセスの不始末を元旦の新聞で始末してしまつた

 

おそらく、まだ読んでいない朝刊だ!

しかし塚本邦雄だけに、こういう失敗すら神々しく見える!

ちなみに愛犬の名が「ポチ」だったらイメージが崩れてしまうので、「ウリセス」は外せないところだ!

 

 

 

さあ、いよいよ第一位は!

 

 

緑陰にをととひわれが仕上げたる一脚の無駄釘だらけの椅子

 

日曜大工の下手クソぶりを、自ら戯画化している!!

そこが逆に凄い!

凄くてわかりやすい!

 

そして、

多分、

奥さんが数日後に捨てるに違いない……!

 

続 塚本邦雄歌集 (現代歌人文庫)

続 塚本邦雄歌集 (現代歌人文庫)

 

 

という訳で、また次の「何でもベスト10」でお会いしましょう!

 

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