恩田陸の旅行エッセー「酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記」を読んでいたら、歴史上の有名人で探偵にできそうなのは誰か、とあれこれ冗談半分に考える部分があって面白かった。
マザー・テレサ探偵、ガンジー探偵、他にキューブリック、黒澤明、南方熊楠、稲垣足穂、プリンセス・テンコー、などなど。
私は有名な人物で考えると、花森安治が探偵役のミステリがあったらきっと読む。
そもそもこの人には探偵っぽい偏屈さがあるし、筋も通っているし、過去もあるし、見かけの上では変人でもある。
何より考え方や言葉に説得力がある。
例えば以下のエピソードに、私は探偵としての花森安治を見る。
あるとき、こんなプランが出されました。
母の日にちなんで、何千人かのこどもに「おかあさん」という題で絵を書かせたところ、いちばん多かったのが、おかあさんがテレビを見ている絵でした。
このデータを軸にして、この頃の母親像というものを、まとめてみたらどう、というのです。
面白そうだ、そんな雰囲気が、ただよいました。そのとき花森はこう申しました。「いまの母親が、どういうふうに時間をすごしているか、それは、もちろん考えてみなければならない大事なテーマではある。しかし、その方法はよくない。それを書いたこどもたちの気持を考えてごらん。
こどもたちは、大好きなお母さんの姿を、その一枚の絵に一生けんめいに書いたのだ。
そこには、テレビを見る母親を批判する気持など、みじんもなかったはずだ。
こどもたちの、そういう素直な気持で書いた絵を、大人のわれわれが、母親批判の材料に使うことに、ボクは反対だ」(酒井寛「花森安治の仕事」)
発端が自然で「一体、この人は何を言い出すんだろう?」という意外性があって、よく聞いてみると合理性があって、しかも人間に対する深い洞察と愛情がある。
そして探偵の台詞を最後まで読むと、また最初から読み返したくなり、構成に全く無駄のなかったことがわかる。
これぞミステリ、これぞ名探偵以外の何であろうか?
- 作者: 酒井寛,装画:安野光雅,題字:大橋鎭子
- 出版社/メーカー: 暮しの手帖社
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