読書の夏 (夏に読み返したくなる本)

 

 

今週のお題「読書の夏」

 

 今まさに読んでいる本や夏に読み返したくなるもの、お子さんに読み聞かせしている絵本や思い出の課題図書など、オススメの一冊を教えてください。夏の自由時間を使って、納涼がてら読書を楽しみましょう。

 

またもや「おすすめの一冊」系のお題で、はてなブログでは何かにつけてこの種のお題が出ているような気がする。

ただし今回はよく読むと、四種類のうちから選べるようである。

 

1.今まさに読んでいる本

2.夏に読み返したくなるもの

3.お子さんに読み聞かせしている絵本

4.思い出の課題図書

 

この中では「2.夏に読み返したくなるもの」が最も書きやすいので、この線で考えてみると、概ね夏といえば戦争文学ということになる。

しかも毎年毎年、新しい本を買うかというとそうではなくて、飽きもせず同じ本を再読して満足しているので、結局のところ誰でも知っているような有名作品ばかり読んでいる。

それでも良書は良書なので、未読の方への推薦図書として五冊ほど挙げてみたい。

 

 

まずは大江健三郎の「飼育」。

 

死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

 

 

自分は高校一年の時にこれを読んで感想文を書いた。しかし何を書いたのかさっぱり思い出せない。

今になっても感想や教訓やメッセージのようなものを考える気にならない。ただ、夏そのものがはち切れそうなほど詰まっている短篇だとしか言えない。

やはり少年が主人公の「芽むしり仔撃ち」も名作で、あちらは印象が似てはいても冬の話である。なぜか分からないが、かなり後になってからそのことに気づいた。

 

 

次は大岡昇平の「俘虜記」。

 

俘虜記 (新潮文庫)

俘虜記 (新潮文庫)

 

 

大岡昇平は「野火」「俘虜記」「レイテ戦記」など、戦争文学の中心に位置するような作品を多く残した。

個人的には「戦争を描きながら戦後を描いている」と評される「俘虜記」が一番しっくりくる。「俘虜記」で描かれた時期以降を描いた短篇も少しあって、帰国して奥さんと再会する「わが復員」の終わり方が洒落ていて好きである。

 

 

次は小説ではなくて、山田風太郎の「戦中派不戦日記」。

 

新装版 戦中派不戦日記 (講談社文庫)

新装版 戦中派不戦日記 (講談社文庫)

 

 

まだ作家ではない、戦争中の山田風太郎が書いた日記で、言葉にも感覚にも切迫感があって生々しい。その日記が今でも読まれ続けているというのは驚きである。

戦後、「作り物そのもの」といった性質の小説を書いた山田風太郎が、それ以前に何を考え、何を書いていたか、それを知るだけでも価値がある。

ちなみに昭和二十年の夏に関しては「同日同刻」という本もある。

 

同日同刻―太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日 (ちくま文庫)

同日同刻―太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日 (ちくま文庫)

 

 

 

四冊目は幸田文の「父」。

 

父・こんなこと (新潮文庫)

父・こんなこと (新潮文庫)

 

 

この中篇は戦争中ではなく戦後の夏を描いている。

「父」は冒頭からしてとにかく暑い。

 

 地上満目の焦土は、未だに宿火をいだいているかに、ちろちろと火のない炎を燃やしてい、天上おおぞらいっぱいには、くるめく太陽が酷熱を以ってのしかかってい、人々は黄色くしなびて首を垂れ、暑さに負けっぱなしに負けて恥ずかしいとも思わなくなっていた。

 

その後も幸田露伴の看病のために氷を買ったり食べさせたりで、日本の夏の光が全編に漲っている。

 

 

最後は戸板康二の「團十郎切腹事件」。

 

團十郎切腹事件―中村雅楽探偵全集〈1〉 (創元推理文庫)

團十郎切腹事件―中村雅楽探偵全集〈1〉 (創元推理文庫)

 

 

表題作の「團十郎切腹事件」は遊び心と品の良さ、論理的な明解さ、キャラクターの魅力、歴史的な薀蓄があり、解決の後でまたひと捻りある。おまけにクイーンや乱歩といったミステリ史上の大物が間接的に関係していて、その上に直木賞受賞作という肩書きまでついているので、読者がミステリに求めるものの全てがこの一編に詰め込まれていると言っても過言ではない。

この話のメインになる昔の道中がまさに夏の旅なのだが、読み返してみると自分の記憶ほどには夏の描写がない。むしろ少しは書けと言いたくなるほど乏しい。しかし自分の頭の中では、いかにも「夏」を思わせる作品として忘れがたい。


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