キツネ顔をした柴犬にしか見えないが、一応はポメラニアンのpちゃんは、飼い主が油断している隙を見逃さない。
たまたま首輪が緩いタイミングを見計らって、スルッと首を抜いてしまう。
「待て!pちゃん!」
という声を振りきるように、ズギュン!という勢いでたちまち五百メートル彼方の白い点となる。
以前飼っていた犬の場合は、こうなると追いかけても怒鳴っても逃げ回って、戻ってこなかった。
餌の時間になるとひょっこり戻ってきたりはするのだが、とにかくこちらの思うようには捕獲できなかった。
pちゃんの場合は、餌を入れる容器をカンカン、と叩いて、
「pちゃんや~、こっちに戻っておいで……」
と優しく声をかけると再び、地を這う白い流星のような勢いでバビュン!と戻ってくる。
別に逃げたい訳ではなく、単に行って帰ってくるだけなのであった。
思春期の家出だって、もう少し時間をかけて渋々帰ってくるのではないか。