コロンブスの帰還

 

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 アメリカ大陸を発見したとされるコロンブス自身は、かの地をインドだと思い込んでいた。その上、帰り道がまったくわからなかった。
 そして実は、船の向きが逆になっただけで北も南もわからなくなるほどの方向音痴で、かなりの重症であった。
 ごまかすにしても限度があると気づいてはいたものの、なるべく船の向きを変えないようにして航海を続けた。失敗が続けば続くほど、意固地になって突き進む性格だったのである。
 船員たちも馬鹿ではないので薄々は怪しみつつ、手柄を立てたコロンブス船長には従った。かくして、船はアメリカ大陸をおっかなびっくり探るように南下していった。

やがて、「謎のバミューダ三角海域」として後世の人々からは怖れられる海域にたどり着いた。

「ミュウ。コンニチハ」
「何だ?海が急に喋り始めたぞ?」
「おい、船長を呼んでこい!」 

 当時、三角海域は産まれたてのホヤホヤで、天気によっては四角形や六角形になる日もあり、海面にはまだ湯気が立っており、子猫のような声で鳴いていた。

「ミュウミュウ。君タチハ、ドコニ行キタイノカナ?」
「我々は、まだ見ぬ未知の大陸を目指しているのだ」
「ソレナラ、モット西ノ方ダヨ。ミュウ」
「あと、どのくらい航海すれば到着するのだ」
「大丈夫、僕ガ放リ投ゲテアゲルヨ。ミュウ」

 三角海域は、時間と空間を調整する術をまだ使い慣れていなかった。船を未知の大陸まで到達させるには力が足りず、太平洋の真ん中に船を飛ばしてしまったのである。
「陸地がどこにも見当たらないぞ!」
 気づいてから叫んでも遅かった。

 コロンブスを乗せた船は数年がかりで太平洋を漂流し、原稿用紙換算で七千五百枚分もの悲惨な過程を経て、命からがらやっと三角海域まで戻ってきた。

「お前のせいだ!」
「責任を取れ!」

 コロンブスは勿論のこと、半数になった船員たちも三角海域を責めた。
 今やすっかり一人前に成長した三角海域は、ミステリアスな口調で応じた。

「未知の大陸を目指しているというから、親切心で途中まで飛ばしてやったのであるぞ」

 たまった鬱憤を晴らす勢いで、コロンブスとその一行は罵倒の言葉を浴びせかける。

「うるさい!時間と手間を返せ!」
「死んだ仲間たちを返せ!」
「いい加減な場所に飛ばしやがって!」
「金で賠償しろ!」
「人殺し!」
「たかが海域の分際で!」
「食糧をよこせ!」
 バミューダ三角海域はとうとう怒った。
「何という恩知らずどもであるか。ならば、お前たちの故郷に送り戻してやろう!」

 海面を揺らしてそう叫ぶと、アメリカ大陸上空コースへと船を放り投げて、ついでに時間も調整して少しばかり戻してやった。
 コロンブスたちの乗った船は大きな弧を空に描き、出発地スペインの大地に舳先から刺さるように落ちて、見事に着地した。
 先が少し割れたものの、うまく目的地に到着して怪我人が一人も出なかったのだから三角海域も腕を上げたものである。結局、強運のコロンブスは方向音痴の件をうやむやにして、帰還に成功した。

 後のコロンブスが、卵の殻を割って強引に立たせてみせたのは、この時の経験から得た知恵であろう。