書くことなし日記:妄想編

 

 

夜中に一人でジョギングしていると、次第に疲れてきてついつい歩きたくなってくる。

誰も見ていないし、少しくらい歩いた方がかえって健康によいのだ、休むこともまたトレーニングなのだ、ナンバーワンよりオンリーワンなのだ、などと勝手な理屈や言い訳が泉の如く湧いて出てくる始末である。

しかし、そんな時には「小公女」のようにあれこれ妄想するのが効果的だということを発見した。

「自分は決して一人で走っているのではない……、大勢のマラソンランナーが走る中で、トップ集団のそのまたトップを走っているのだ……、アベベ、イカンガー、瀬古、宗兄弟、Qちゃん、寛平ちゃん、村上春樹らと一緒になって走っている……、テレビ中継の視聴率は38%なのだ……!」

このような、無理矢理でっちあげたポジティヴなイメージと共に走っているとさほど疲れない。

 

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)

 

 

ついでに沿道の声援や振られる旗、先導車、白バイ、アナウンサーや解説者の台詞まで妄想するとさらに疲れ知らずになる。

 

アナウンサー:すごいペースでトップを走っているのが、ケニア出身のアンコロ選手です!この無名の選手が、信じられないほどのスピードでトップ集団をグイグイ引っ張っています!

解説者:このペースで行くと、1時間50分台の記録が出そうですね!

 

 

しかしそれでも長く走っていると、妄想の力が弱まってくる。

 

アナウンサー:ああ~っと、アンコロ選手の足が止まりそうだ~!ペースがどんどん落ちている~!トップ集団から抜け落ち、引き離されてしまう~!

解説者:この辺でもう歩くしかないでしょうね。素人は無理せず、ほどほどに休むことが肝心ですからね。

 


この辺りで再びポジティヴになって、また背後からトップ集団をゴボウ抜きにするイメージを心に描くと実に効果的である。

 

アナウンサー:おお~っと!一旦は引き離されたアンコロ選手、再び勢いを取り戻して、またもやトップだ~!しかも、短距離走者のようなスピードで快走しているぞ!

解説者:これはもう、完全に世界新記録が見えてきましたね!

アナウンサー:我々は今、歴史的瞬間に立ち会っているのです!

解説者:その通り!頑張れ、アンコロ選手!あと50メートル!30メートル!

アナウンサー:やりました!ついにゴールです!記録は1時間52分12秒!!

解説者:おめでとう!アンコロ選手!もう他の選手なんかどうでもいい!握手してもらいに行きましょう!

 


と、このような感じで終わるのがベストの流れである。

よく「自分との戦い」なんてことを言うが、自分の弱気と自分の妄想とを戦わせると、妄想の勝率がかなり高い。

コツは逆転、世界新記録、ウソのように調子をよくする、という三点だろうか(実際ウソだけど)。

 

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