「短歌の目」の4月分の創作過程と反省を書いておく。
3月は体言止めが矢鱈と多くなったので、それを減らそう!というのが今月の目標であった。
今回は発想そのもののメモや推敲の記録も残しておいた。
過去を美化せずに全十首を振り返るのがしんどい気もするが「反省なくして進歩なし!」という気合いで乗り切っていきたい。
1.入
入り口よりお化け屋敷を駆け抜けよ消化器官を抜けて出口へ
これは「入」というお題を見て、すぐに頭に思い浮かんだメモが残っている。
「~入城す」という俳句を連想する
ちょうど竹岡一郎という人の句集「蜂の巣マシンガン」を読んでいたところだったので、その中の一句を思い描いてしまった。
炎帝を従へ少女入城す
という句である。
このイメージに引きずられて、似たようなものを書いたら不味いと思った。
その次のメモが以下のもの。
お化け屋敷は入り口と出口が異なる点が生物の消化器官的な構造だ
普通の建築物は、人家もビルも、入り口が同時に出口でもある。
ところがお化け屋敷はヘビの体のように、入り口から内臓のような通路を通って、別の出口から出るという点が面白いなあと思ったのである。
入り口と出口異なる構造ぞ お化け屋敷は消化器官か
入り口よりお化け屋敷を通り抜け消化器官の如く出口へ
入り口よりお化け屋敷を走りぬく消化器官の如き出口へ
入り口よりお化け屋敷を飛び抜けよ消化器官の如き出口へ
入り口よりお化け屋敷を飛び抜けよ消化器官を過ぎて出口へ
入り口よりお化け屋敷を駆け抜けよ消化器官を抜けて出口へ
この短歌の冒頭に「入り口」、お終いに「出口」という言葉を持ってくれば、ちょうどお化け屋敷の構造と一緒になると思ったのである。
しかしこの見方だと出口は排泄器官ということになってくるし、そうは書きたくないからといって「消化器官」にすると今度は分かりにくい。
全体に理屈っぽくなっているし、意図したことが伝えきれなかった。
2.粉
粉々に散るほどの労苦ついに来ず 四月の蜂が群がり輝く
「身を粉にして働く」というが、実際にボロボロになるほど働いたことがあっただろうか、今後もそういう機会があるのだろうかという自問自答、嘆きのようなもの。
推敲の過程はこういう感じ。
粉々になるほどの労苦も無きままに 蜂の羽音に震える四月の
粉々になるほどの労苦ついに来ず 働き蜂の四月の羽音
粉々に散るほどの労苦ついに来ず 四月の蜂が群がり輝く
3.新学期
菜園は種まく毎に新学期 卒業生らを茹でて食べたし
「新学期」はイメージが湧かなかった。「去る人を忘れて思わぬ新学期」というメモがあるが、うまく発展しないので悩んだ。
そのうちに、以前ブログに書いたことを思い出した。
動物も菜園の植物も、育てる過程は「可愛いなあ」と思っているのだが、最終的に菜園の大根やオクラなどは食べてしまう、この心理はやや不思議だという話である。
その心理とお題の「新学期」、そこから出てきた「卒業生」という言葉が上手くかみ合ったらしく、引用スター率が高かった。
意味がすんなり読む人に通じたような感触を得ることができた。
菜園は種まく毎に新学期 卒業生らを茹でて食べたし〇
菜園はひと蒔きごとに新学期 卒業生らを茹でて食べたし×
二つで少し迷ったが、「ひと蒔き」というのは分かりにくいと考えて、「種まく毎に」にした。
4.フール
春昼に郵便二輪車唸りつつ「フール・オン・ザ・ヒル」を初めて聴いた
「フール」は「エイプリル・フール」と「フール・オン・ザ・ヒル」しか思いつかなかった。
後者はビートルズの曲名で、のどかな曲調なので春と合っていると考えた。
しかしこの曲はさほど有名でもないし、知らない人の方が多いだろうから、と気にしながらあれこれ手を加えた。少なくとも曲名であることはそれとなく示すべきと考えて、以下のように直していった。
春うらら郵便局のバイクは唸り ポールの歌う「フール・オン・ザ・ヒル」
春うらら郵便バイクはいつもの唸り「フール・オン・ザ・ヒル」はどのアルバムだったっけ
春うらら郵便バイクは唸りつつ「フール・オン・ザ・ヒル」はどのアルバムか
春昼に郵便バイクは唸りつつ 「フール・オン・ザ・ヒル」を初めて聴いた日
春昼に郵便二輪車唸りつつ「フール・オン・ザ・ヒル」を初めて聴く日
「ポール」とか「どのアルバムか」といった書き方だと、知らない人を排除しているようで不味い。
今日初めてこの曲を聴いたばかり、という人も招き入れたいというつもりで最終的には過去形ではなく「今日かもしれないし、数十年前かもしれない」=「初めて聴く日」とした。
よく知らないという人は「『マジカル・ミステリー・ツアー』のベスト3」をどうぞ。
バイクは「二輪車」、春うららは「春昼」に変えた。
散文では「春昼」のような古臭い言葉を使う機会がないので、ここぞとばかりに使っていい気分である。
5.摘
あれこれと臓器を摘出してますがこれこの通りピンピンしてます
私は仕事で医療保険を扱っていて、お客様と病気の話をする機会が多い。
その手の雑談の中で「臓器をたくさん摘出しているのに、ずっと元気な人がいる」という話を異口同音に色々な人から聞くので、そのことをそのまま書いた。
前々から「誰かが言った言葉をそのまま書いた」という類の俳句や短歌に興味があったので、実際に誰かが目の前で言っているかのような形にした。
あれもこれも臓器を摘出した後も
あれこれと臓器を摘出してますがこれこの通りピンピンしてます
ほとんど推敲なしで、すぐ完成した。上記の二行しか残っていない。
短歌は四句目が大切らしいが、この場合は「これこの通り」という表現に臨場感があって、意味もすらっと通じるようなので成功したかと思う。
【後編】に続く!