自信満々で「私は雑多に何でも読みます」とプロフィールに書いている読書家でも、なかなか句集には手を出さない。というかそもそも「句集」という分野は視野に入っていないように思われる。
私も作家や芸能人が余技で出している句集は読んだことがあったが、俳人が出した句集を通して読めたのはこの本が初めてである。そもそもはツイッターでこの人の第二句集「ふるさとのはつこひ」が宣伝されていたのをたまたま目にしたのがきっかけであった。
表紙が句集らしくないのがまず良いと思った。余談だが、表紙絵を描いている逆柱いみりという人は90年代に「ガロ」でポツポツ作品を発表していた漫画家で、私は当時から妙に惹かれるものがあって、単行本も買って読んだ。
いま現在は、はてなダイアリーにオフィシャルブログがある。
出版元の「ふらんす堂オンラインショップ」を見ると、代表句がいくつかあって、
世を憎む少女の息が鎌鼬
祭あと市電がへんなもの撥ねる
どこの地下壕も玉虫でいつぱい
人の皮脱いだ僕へと流星群http://furansudo.ocnk.net/product/2098
とりわけ「鎌鼬」と「へんなもの撥ねる」にはビビッと来るものがあった。他に「うすものを着てねえさんはテロリスト」という句もある。
私の頭の中では日野日出志風の絵で再生され、怪奇漫画的な世界がグワーッと広がる一方であった(少女が出てくる時は楳図かずお風)。
しかしこの本は売れているらしく、アマゾンでは品切れで、ふらんす堂は前払いとかゴチャゴチャ書いてあるので嫌になった。そこで先に古本で第一句集の「蜂の巣マシンガン」を読もうと考えて、古書価格が1円だったので注文した。
読んでみると前半は割と折り目正しい、正統派の俳句が多い。
雪達磨動かんとして崩れけり
ひやうと鳴き鹿のかたちに闇深し
寒卵神父の夕餉澄みにけり
少年を娼婦諭せる焚火かな
土筆野や女ばかりの生るる家
後半になると雪女や河童が出てきて、やはり怪奇幻想チックになってくる。
雪女自死の少年連れて北へ
紅葉且つ散る清姫が追つて来る
雪女まつろはぬゆゑ声持たず
出勤す鞄に鬼火匿ひて
黄泉が空掴まんとして曼珠沙華
しかしそういう路線で売り出そうという企みやアピールはなくて、結社「鷹」主宰の小川軽舟による「序」には「幻想的」とか「怪奇性」といった表現が一言も出てこない。
「竹岡君の詠う世界は風流韻事との決別の様相を次第に明らかにする」
「近年特に卑俗を恐れず、そして難解と思われる句も増えてきた」
と書いてあり、物は言いようだなと妙に感心した。
個人的にはオーソドックスな句も幻想味のある句も、この人の俳句は常に輪郭がはっきりしていて好みである。よってお勧め度は☆4つとしたい。
http://furansudo.ocnk.net/product/1732
追記:この人の俳句が153句も発表されているブログ(ウェブマガジン)があった。第二句集とかなり重なる作品群らしい。十句依頼したら153句になったとのこと。
http://weekly-haiku.blogspot.jp/2012/05/264.html
「竹岡一郎 比良坂變 153句」
http://weekly-haiku.blogspot.jp/2012/05/153.html