初期の黒澤映画で未見のものが何作かあるので、「醜聞」を観てみたら意外と面白かった。
主な筋は、若い画家と声楽家がたまたま一緒の旅館にいるところを写真に撮られて、勝手に記事にされてしまうというもの。
画家が三船で、絵のモデルになっている主婦のような人がいい味を出していた。
この人は、
「以前はヌードも描いてもらっていたけど、子供を産んじゃうとお腹の皮がたるんじゃうわね」
などと気安い調子で三船と話していたりして、何かにつけて一緒にいる(家庭はどうなっているのだろうか)。画家とモデルというより、仲のよい弟と姉のような雰囲気だった。
後で調べてみたら若い頃の千石規子だった。長生きした女優は、お婆さん役だけが印象に残ってしまう。黒澤映画では「野良犬」にも出ていたが、すねたような、ふて腐れたような台詞を言う時の千石規子は実にいい。