「トゥルー・ディテクティブ」5話まで

 

 

ドラマ「トゥルー・ディテクティブ」の1stシーズン(全8話)の5話まで見終えたところで、急に面白くなってきた。

 

 

それまでが全て駄目という訳ではなくて、音楽が控えめ(イメージ的にはほとんど無音)で、聞き込み捜査中心の話で、あとは家庭内不和とか、バディものなのに仲よくならないとか、台詞が急に哲学的になるとか、いずれの要素も魅力的だが地味で、わかりやすい派手なアクションや甘い要素が少ないのである。

 

私があれこれ説明するより、以下の二つの紹介記事に目を通してほしい。どちらも中身が濃いので、見終わった人が読んでも価値がある。

 

wired.jp

 

   舞台はアメリカの南端、メキシコ湾に面するルイジアナ。いわゆる深南部の一つであり、「ファーゴ」の雪景色から一転して、アリゲータも棲む湿地帯を湛えるニューオリンズで変死体が見つかる。「ファーゴ」には西部的なネイティヴアメリカンの呪術の影が見られたが、こちらはカリブ海経由のブードゥー。要するに、この物語も異常な話。けれども「ファーゴ」が事件の連鎖の中に狂気が宿るのに対し(だから少しコミカル)、こちらは事件の中核がストレートに猟奇的。それも含めてブードゥーの影を引きずっている。

 

 ルイジアナは、その名の通り「(フランス王)ルイの街」であり、アメリカのなかでは珍しい元フランス領。郷土料理として有名なケイジャン料理もフランス風の土着料理。人種的にもカリブ海経由で混血人(クレオール)がやって来た街であり、それゆえ街の成り立ちそのものが、アメリカの基礎にあるアングロサクソン文化とまったく異なる。さらにいえば、カトリックといっても、フロリダやテキサスのようにスペイン支配があったわけでもない。つまり、アメリカのなかではかなりイレギュラーな空間がルイジアナ

 

 そのうえ、隣のテキサスと比べれば遥かに発展の遅れた田舎町。作中でもテキサス出身のマコノヒーは、都会からやって来たいけ好かないインテリとして、ルイジアナの地元警官たちに疎まれていた。その退廃的な雰囲気がまた、広大な空き地のような湿地帯の風景とよくなじんでいる。そう、だからこのドラマは、遠景からのショットにも是非注目してほしい。どうにもいえない文学的衝動を与えてくれる。ある意味でスコセッシ的。

 

 

こちらはちょっとお終いの方の話をばらしている。

 

dramanavi.net

 

 「70㎜フィルムで撮られたピントの浅い、夢のような映像。女性の死体が発見される。彼女は拷問された上、頭に鹿の角をつけた状態で見つかり、周囲には木の枝で作った魔除けが飾られていた。本作は、この儀式殺人を追う刑事コンビの物語。舞台はニューオリンズに近い、ルイジアナ州のメキシコ湾沿岸。これは一種の"南部ゴシック"だ。アメリカ南部はバイブル・ベルトと呼ばれ、聖書を字義通りに信じるキリスト教福音派が多いが、奴隷がアフリカから持ち込んだ呪術がカトリックと混じり合ったブードゥーやサンテリア、ヨーロッパ古来のまじない、いわゆるウィッチクラフトなども混在する。そんな迷信や因習に支配された神話的でグロテスクな南部の物語が南部ゴシックで、最近ではコーマック・マッカーシーの『血と暴力の国』や、ダニエル・ウッドレルの『ウィンターズ・ボーン』がある。しかし、ラスト刑事(マシュー・マコノヒー)だけは異分子だ。彼は、相棒のハート刑事(ウディ・ハレルソン)にこんな話をする。『人間の自意識は進化の失敗だった。人間は自己という幻のために苦悩する。我々は意味のある存在だと信じているが、実際は何者でもない。子孫を作るのはやめて、仲良く絶滅すべきだ』 彼のセリフは押井守監督の『イノセンス』で繰り返し語られる哲学とほとんど同じ。ラスト(錆の意)は、ある悲劇によって心が錆びついてしまっているのだ。『口の中に嫌な味がする。サイコスフィア(精神圏)の匂いだ』 サイコスフィアはヌースフィア(叡智圏)とも言う。ソ連の原爆開発のメンバーでもあった科学者が1920年代に唱えた考えで、簡単に言うと人類の知性の集合体のこと。普通は刑事が口にする言葉ではない。しかもその後、ラストは色を味として感じると告白する。これは、音を色として感じたり、形に味を感じたりする、シナスタジア(共感覚)と呼ばれる現象。これは見たことのないドラマになるぞという期待を裏切らず、殺された女性ドーラのノートからは『黄色の王』という言葉が発見される。ここでホラーやアニメのオタクは仰天するだろう。ドラマ内では説明がないが、King in Yellowとは、作家ロバート・W・チェンバースの短編集『黄衣の王』(1895年)に登場する謎の邪神で、日本のアニメにまで登場する有名キャラ。『黄衣の王』から、詞の一節がドーラのノートに引用されている。『二重太陽が湖に沈み/カルコーサに影が伸びる』

 

 2005年5月25日のニューヨーク・タイムズ紙は、ルイジアナ州の、ポンチャトゥラという人口わずか6000人の町のホサンナ教会の牧師ルイス・デヴィッド・ラモニカ(当時45歳)ほか9人の逮捕を伝えた。ラモニカらは1999年から数年間、自分の教会の中で自分の息子を含む25人の子どもを宗教的儀式においてレイプしたと自供。警察は教会の床に悪魔崇拝に使う五芒星が描かれた痕を発見した。ラモニカらは、猫を殺して、その血を儀式に使ってもいたらしい。彼らが何を崇拝していたのかといった詳細は報道されていない。ただ、犯人の中には地元の保安官補もいた。証言によれば彼らは熱心なキリスト教信者だったそうだが、聖書や神を現実として信じるなら、悪魔の実在も信じることになるので、何かのきっかけで寝返ることもあるだろう。本作の脚本家ニック・ピゾラットは、この事件が構想のヒントになったことを認めている。劇中で被害者の体に描かれた青い渦巻きも事実に基づく。

 

これから見る人に対しては「4話までが地味だけど我慢するべき」と言いたい。5話で話が大きく動いて、別の筋書きがグワーッと浮上するのである。

それから「ディテクティブ」の最後は「ヴ」と書きたくなって落ち着かない。