8月なのに1月

 

スポンサーリンク

 

 

 こんな夢を見た。
 自分が、日本有数の進学校の体育教師にされている。
 いつも半袖のポロシャツを着て、下はジャージで、首から笛をぶら下げている。
 共学の私立校で、およそ半数近くは女子生徒である。男女いずれも体育という科目や体育教師を馬鹿にしている訳ではないが、大学受験に関係ないので重視はしていない。

 8月1日が登校日で、そうでなくても補習や夏期講習で生徒たちは学校にせっせと集まってくる。
 暑い。
 それでも自分にとっては1月であり、自分だけは1月のように振舞っている。
 朝、廊下ですれ違う生徒が、
「おはようございます」
 と言うと、
「あけまして、おめでとう!今年もよろしくな!」
 と明るく応じる。

 終戦記念日になると、テレビでは戦争物のドキュメンタリーや追悼式典が放送される。
 しかし、自分だけは成人の日である。
 ガラーンとした職員室で、たまたまいる別の教師に話しかける。
「街には振袖のお嬢さんの姿もちらほらと、見かけますな……」
 見かける筈がない。
「えっ?そうでしたか……」
 と、相手の方が気まずそうにしている。
 人生は続く。

 12月になると、周りは忘年会の話をして慌しい。
 しかし自分には法務省から先月の末に通知が来て、2月として行動する義務が課せられている。
「もうすぐ忘年会かあ、14日でしたよね?」
 などと言われようものなら、
「義理チョコを貰う日だからなあ、その日の夜に酒はちょっと……」
 と尻込みする。
 あくまでも自分だけは、2月であることを貫き通さねばならないのである。
 人生はまだ続く。

 女子生徒が二人、わざとらしく「ひそひそ」と声に出して言っている。
「ひそひそ……、あの先生ってさ、何でやることがいつもずれてるのかな?」
「知らなかったの?昔は普通の人だったんだけど、罰でここの教師にされちゃったんだよ」
「罰なの?」
「罪を償っているのよ」
「何の罪で?」
「さあ……」
 自分は聞こえない振りをして廊下を歩いている。
 内心では、
(来月はきっと、あの二人も驚くに違いない)
 と、密かに笑いをかみ殺している。
  
 やがて世間は1月になる。
 正月も関係なく、1日から正月講習と称して、勉強している生徒たちがいる。
 自分は授業をする訳でもないのに、
「あけまして、おめでとうございます!」
 と元気いっぱい、馬鹿いっぱいの笑顔で挨拶する。
 例のひそひそと話す女子生徒らはビックリしている。
「あっ、わかった!」
 と察しのいい男子生徒が大声を出す。
「先生、今日は先生にとってはエイプリルフールなんでしょう?」
「そうでーす!今日だけはみんなと一緒の気分を、味わえるので~す!」
 人生はまだまだ続く。