黒影の消息

 

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 こんな夢を見た。

「あ奴だけは許せぬ」
「地獄の底まで追ってやる」
 皆、黒影の件となると本心から怒る。
 思い出して怒る。
 寡黙な者さえ、腸が焦げるほど怒る。
 ただひと言、
「殺す」
 目を血走らせてポツリと漏らす。
 別のある者は時返しの術を使い、黒影を捕獲するのだと息巻いた。
 使うと自分自身の寿命を削ることになる。それすら黒影を確実に誘い込めるかどうか、不明である。

 黒影は修行と称して多くの者を使い、金銭のありそうな城や倉を襲わせた。
 修行の過程で惨殺された者、戻らなかった者、深い傷を負った者、自刃した者は数知れない。一にも二にも術を会得するためである。犠牲はやむを得ない。
 ただし、晴れて修行の期間が終れば、貯まった金銭は残った者で山分けとすべきであった。
 にもかかわらず、修行の最後の日――。
「総仕上げに、逃げ足!」
 と叫んだ黒影は、逃げ足の術で煙のごとく姿を消したのであった。
 金と共に。
「嘘!」
  弟子を自認する生き残りの者らは絶句した。貧農の出の者が少なくなかった。

 顔を握り拳大にまで縮める術を操る黒影は、それを忍者修行の際、弟子たちに教えた。
 だが、戻す方法を半端にしか伝えなかった。
 そのせいで、今でも顔が小さいままの者がいる。
 声がピイピイ、と鳴るように聞こえるので草笛と呼ばれている男である。
「ソリャア、油断大敵ッテコトヲ教エテクレタカモ知レネエケドヨー!」
 今でも思い返すだけで、小さい顔を赤くして興奮する。
「許セネー!!」
 草笛がピイピイした声でそう叫ぶと、つい笑ってしまう。
  
  やがて、
「黒影が捕えられた」
 との報が、闇の世界を駆け巡った。
 電光石火の勢いであった。
 聞くなりもう走り出す者ばかりであった。
「この手で」
 殺る、という意味であった。
「我こそは」
 名を挙げる好機であるともいえる。
 しかし――。
 罠ではないか。
 あの黒影がそう易々と捕えられるとは、かえって怪しい。そのような声も少なくはなかった。
「黒影は顔の原型を留めぬほど、刃物で顔を滅多斬りにされているらしい」
 既に手負いの状態なのだ。やはり恨みを持っている者が、全国に数多《あまた》いるに違いない。
「許サネエゾー!」
 草笛の声も混じって聞こえた。
 皆、笑いをこらえながら矢の如く走った。
 どこからか、無数の忍者が終結し、闇の底を走っていた。
 数百か、あるいは数千にも及ぶのであろうか、異常な数の忍びの者が音もなく、黒影のいる城を目指していた。