心臓

 

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 こんな夢を見た。
 広い草地に、原始人の自分がぼんやりと立っている。肩から獣の皮を掛けて、目的も欲望も何もない。
 そこへ友人らしき人物が来て、驚いたような顔をする。顔といっても現実にいる友人の顔ではなく、抽象的な、漠然とした存在である。
「お前、こんな所で何してるんだ?」
「別に何も」
「学校はどうした?」
「学校?」
「義務教育なんだから、学校へ行かないと駄目だぞ!これから俺も行くから、お前も来いよな」
 さも当然だという調子で言うので、一緒に少し歩いていくと、石でできた素朴な学校がある。

 教室には野蛮そうな、半分はゴリラの血が混じっているような男が数人と、半裸に近いプレイメイト的な女が数人いる。皆、獣の皮しか身に着けていない。大蛇を体に巻いている女もいる。
 先生らしき人物が、いきなり、
「円周率はいくつかな?」
 と訊いてくる。
「1だと思います」
「2だと思います」
 意見が分かれる。
 自分は、
「3の方が近いと思います」
 と言ってみる。
 すると先生が驚いて、
「よく知っているな!その数字は発明されたばかりで、間もない数だぞ!」
 と叫び、皆が自分の方を見て、拍手をする。
「ブラボー!」
「素敵ー!」
「天才だ、数学の天才あらわる!」
 絶賛の嵐である。男は指笛を鳴らして喜び、女の目は全部ハート型になっている。
 自分も調子に乗って、しかし嬉しい素振りは見せずに、
「まあまあ、静かに静かに」
 などと、手で抑えるような仕草をする。

 休み時間になると、先生が「ちょっと来てくれないか」と手招きする。
 技術家庭科室のような作業場に、巨大な石の盥がいくつもある。その中で職人風の男が石に石をぶつけて、形を整えようとしている。
「ぬ」
 のような形を造っている男がいるので、
「何をしているんですか」
 と、こっそり先生に小さい声で訊いてみると、
「数字の3の次が4だってことは知ってるだろ?」
「はい、一応」
「4の次を製作中なんだ」
「なるほど……」
 納得したように自分は演技しているが、このままでは「5」が生まれそうにない。
「を」
 に似た形を作っている男がいたので、
「もっと単純にしてみたら?」
 とアドバイスしてみた。
 ひっくり返したり、余計な部分を削ったりしているうちに、形が「る」「ろ」に近づいてきて、やがて「S」になってきた。
「あともう少しで完成ですかね」
 と言うと、先生も喜んで、
「君のおかげで数学の世界が広がったよ!」
 と肩を叩いてくれる。

 次は体育の時間なので、皆がゾロゾロと歩いて、グラウンドらしき場所に出る。
 何もない場所に、ぼんやりとトラックのような曲線が描いてある。
 先生が、
「走れ!今はまだそれしかできないんだぞ!」
 と、怒っているような調子で命じる。
 皆は素直に、トラックを反時計回りで走り始める。
「まだスポーツが発明されてないからな」
「ボールを作る工場もないし、しょうがないよな」
「ラジオ体操なんて、夢のまた夢だよ」
 と、ぼやきながら走っている。
 走っても、体が少しも疲れない。それどころか、スピードをいくら上げてもさらに軽々と、速く走れるほどである。皆がかなりの速度で走っている。
「原始人だから、パワフルなんだなあ」
 と自分は納得している。
 友人も、
「やわな現代人とは違って、俺たちは体の動きに切れがあるよな!」
 と自慢げである。
 一時間経っても、二時間経っても、平然と走り回っている。

 子供の声でナレーションが入る。
「こうしてグルグルと何十周、何百周も走っているうちに、次第に体が内側に傾き、内臓も内向きに寄っていきました。人間の心臓が今でも左側に寄っているのは、このためと言われています」