被害者の母親が三枚の大きな広告板(スリー・ビルボード)に「娘はレイプされて焼き殺された」「未だに犯人が捕まらない」「どうして、ウィロビー署長?」と張り出して、警察署長と対決する姿勢を明らかにする、というのが発端で、こういう風に「公権力は腐っている」的な主張をする映画は珍しくない。
しかし本作は「被害者遺族=善」「警察=悪」と決めつける訳でもなくて、被害者や遺族にも少々の悪は含まれており、警察にしても怠惰の中に微量の善が混じってもいる。加害者に見える人間は、別の文脈においては憐れな被害者でもある。
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台詞は多くないし、音楽も静かだし、人々が淡々と生きている街で、映画にしては沈黙が多く、空間的にも音楽的にも余白が多い。ところがその手の雰囲気に染まったお芸術風の映画でもなくて、「ウィークエンド・シャッフル」を聴くとニルヴァーナのポスター(「イン・ユーテロ」)とか、この監督は北野武のファンで意識しているとか、この書き起こしによると、
https://miyearnzzlabo.com/archives/45952
フラナリー・オコナーの「善人はなかなかいない」が画面に出てくるとのことで、実はかなり情報量が多い映画でもある。
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ついこの間まで「全短編」は品切れになっていたように思うのだが、また書店に並ぶようになったのは、この映画のおかげかもしれない。
追記:後で調べたらやはりこの映画の影響で復刊されたらしい。
【速報】ちくま文庫『フラナリー・オコナー全短篇 上・下』1月末復刊決定!本年度大注目映画『スリー・ビルボード』を読み解く鍵となる作品集『善人はなかなかいない』収録(上巻)。店頭でのお取り扱いがない場合もございます。確実に購入をご希望される方は、お近くの書店様にご予約をお願いします。 pic.twitter.com/99VaVB18OE
— 筑摩書房 (@chikumashobo) January 10, 2018
このように見る人によって、見える小技やポイントが少しずつずれているという、古今東西の名作にありがちな特質をこの映画は充分すぎるほど持っている。
私自身はというと、主人公が途中で広告費を出せなくなって、そこで喜劇的な一幕があるのだが、あの辺でちょっと大金が絡む落語をいくつか連想した。「で、その大金の出どころは?」という謎でちょっと興味を引っ張って、合理的な解決が与えられるまでは確かに落語っぽい空気が流れている。落語とまでは言わないが、ブラック・コメディ的で悲喜劇的な瞬間が何度も何度も訪れることは間違いない。
それにこの南部~中西部の雰囲気+ウディ・ハレルソンというと「トゥルー・ディテクティブ」を想起するのだ。
実際、「トゥルー・ディテクティブ」の1stシーズンの続編として「スリー・ビルボード」を観てもそう違和感はないと思うし、そう思って観た方が驚きは大きいので、むしろ積極的にお勧めしたいほどである。
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(ここからややネタバレ)
で、 「スリー・ビルボード」は結末に触れにくい映画でもあって、私は結局のところ最後にあの二人は真犯人のところへ真っ直ぐ向かっている、という理解をしているのだが、あまりそう思っている人は少ないように見える。
つまり「うまく隠蔽して誤魔化しきったもの」と偉い人は考えているのだが、二人はおそらく正確に真犯人のところへ到着して、そこで殺すにせよ殺せないにせよ、もうひと波乱もふた波乱もありそう……、と考えている。しかし、それが大正解というものでもなさそうなので、別の解釈があったら教えてほしい。