主:実は私、バンドを結成しました。
客:と言いますと、音楽活動ですか。
主:ええ、私もかれこれ数十年間、地道に慎ましく生きてきたものですから、この辺でひとつ派手にいってみようと思いまして。
客:なるほど、私も「何かのヒント」を数ヶ月は読んでいますから、大体のことはお察しします。
主:有難うございます。
客:時にバンド名は何というのでしょうか。
主:バンド名とは、いわばバンドの顔。シンプルで覚えやすく、しかも軽くて深くて味がある。そんなバンド名が私の理想でした。
客:確かにその通りです。
主:例えばビートルズ、ローリング・ストーンズ、ビーチボーイズのような。
客:勿体ぶらずに教えて下さい。
主:ずばり言いましょう、「何かのヒントズ」です。
客:「トイザらス」という変な表記を初めて目にした時の気分を、急に思い出してしまいました。
主:色々と言いたいこともおありでしょうが、要は中身なのです。
客:それは大切な心がけです。
主:中身が非凡であれば、他はみな考えるにも値しない些事に過ぎない。そう気がついたので、あえてダサ気味の平凡な名前にしてみたのです。
客:なるほど、よほど中身に自信がおありなのですね。
主:自信はあると言えばありますし、無いと言えば無いのです。
客:急に禅問答のようになりました。
主:と言うのも、メンバーが非常に多いものですから、簡単に言おうとするとかえって分かりにくくなってしまう面があるのです。
客:では、メンバーを何人か紹介していただきましょう。
主:何人か紹介すること自体は非常に簡単なのですが、一方ではまた難しいとも言えるのです。
客:ますます謎めいてきました。公表できないほどの有名人が含まれているとか、事情があって名前を伏せる必要のある人物がいるとか、そのような理由でもあるのでしょうか。
主:ええ、メンバーの中にはそのような人もいます。
客:教えていただくことはできないのでしょうか。
主:いや、できなくはありません。簡単といえば簡単です。
客:簡単なのに、具体的なことは何も仰らない。これでは意味がわかりません。
主:簡単に言ってしまうよりも、遠回りした方が分かりやすい場合もあるのです。
客:では、遠回りをしていただきましょう。
主:それではまず、私のバンド理念についてお話させて下さい。
客:何が始まるのかと思ったら、企業の公式HPのような文句ですね。「まず、私どもの企業の経営理念についてお話させて下さい」なんて、よくありますよね。
主:順を追ってお話しますと、まず私は「バンドを結成しよう」と考えたのです。
客:なるほど、それが出発点。実に納得できます。
主:そうしますと次はメンバー探しです。
客:やはり楽器店の掲示板や、音楽雑誌の交流コーナーなどで探すのでしょうか。
主:最初は私もそうしたルートで募集活動を行っていましたが、人に連絡したりされたり、評価をしたり、合否の決定をしたり、通知をしたりといった作業がどうにも億劫に感じられてならなくなってきたのです。
客:しかし、そこで面倒がっていては先に進みません。
主:その通りですが、他にもモラルの問題がありました。
客:モラルですか。
主:実際に「このギター志望者は下手だから駄目」「このヴォーカルは声がよくないから不採用」などという調子で合否を決めていると、落ちてしまった人が気の毒でなりません。そもそも人が人を集め、選び、裁くなどといった偉そうな行為が許されてよいのでしょうか。しかも、たかが私などの判断によって。
客:それは双方が納得づくなのですから、合格者と不合格者が出るのは当然のことです。そこでモラル云々というのは、どこか問題がずれているように思えます。
主:いや、相手が納得したとしても私は納得できません。私がギター志望者を面接や実技で落とす、彼は不合格という結果に納得している。ところが私は自分自身の判断に納得できない。彼が気の毒だし、自分で自分を許せない。
客:気にする必要はないでしょう。
主:いや、世間一般ではどのように考えられているのか存じませんが、私自身の良心が痛むのです。痛くて心が悲鳴をあげてしまいます。
客:それならば合格にしてしまえばよいでしょう。
主:その通りです。ある時、それが唯一の解決策であることに気がつきました。
客:では、ギターの彼は?
主:彼を合格にすることにしました。そうすれば私自身も納得がゆきます。
客:そんな調子でやっていると、皆が合格してしまうではありませんか?また、バンド全体のレベルが低下してしまう懼れもあるのではないでしょうか?
主:今の二つのご質問は、共に何の問題もないと考えます。まず、皆が合格してしまうという問題ですが、合格とか不合格といった区別(=差別)を廃止して、皆を平等にしようというのが私の考えであり、このバンドの結成理念なのです。思いついた瞬間、「平等」をあらゆる活動や行為の根本的な指針とし、精神的な礎とすることにしました。
客:とうとう理念のお話になりましたね。
主:ええ、これなら面倒だという気にもなりませんし、皆が平等ですから、合格者も不合格者も等しく皆が合格として、さらに参加志願者とそうでない人の区別(=差別)も全廃しました。
客:すると、そうでない人も全員が合格ですか。
主:結局のところあらゆる人を皆、合格扱いとしているのです。楽器の上手い人、下手な人、弾けない人、皆が合格です。
客:つまり、あらゆる人は皆「何かのヒントズ」のメンバーということですね。
主:その通りです。メンバーはまず人間全員です。性別や年齢、人種、国籍、居住している場所、使用言語などの条件は一切問いません。また、自動車免許、職業の有無、配偶者、それに海外旅行や妊娠・出産、盲腸、おたふく風邪の経験の有無なども一切問いません。
客:なるほど、それで具体的な紹介が困難だったのですね。では、一つ質問をさせて下さい。
主:何でもどうぞ。
客:「いつの間にか勝手にメンバーにされては困る」という人から、脱退の申し出があった場合はどうなさるのでしょうか。
主:世の中の99.999999%以上の人は「何かのヒントズ」の存在は勿論のこと、自分がメンバーであることすら知らないので、そのような申し出はないと思います。バンドのメンバーであるとはいえ義務も権利も特典も会費もありませんので、気づくことすら困難でしょう。
客:もし、ほんの僅かな人たちから本当に申し出があった場合はどうなさるのでしょう。
主:そうですね、他のメンバー全員のサインやハンコを貰ってくるとか、脱退金を私に払ってくれるというのなら考えましょう。
客:警察沙汰や裁判沙汰になったら困りませんか。
主:そもそも警察関係者や法曹関係者も皆、何かのヒントズのメンバーですから、そうなったらメンバー同士でうまくやって欲しいものです。
客:メンバーの問題はメンバーで、という訳でしょうか。
主:ええ、とにかく仲間割れはいけません。お互い同じバンドのメンバーなのですから、平和に解決されることを望みます。
客:では、今回はこの辺で失礼したいと思います。次回はバンドの活動内容などについて詳しく教えて下さい。
主:承知しました。
客:どうも有難うございました。
主:いえいえ、どういたしまして。
客:……。
主:……。
客:ってふざけんじゃねえよ!
最初から最後までデタラメばっかりじゃねえかよ!
最初の方だけ読んだ人とか、ちょっと信じちゃってる部分も絶対あったって感じだろ!!
通りすがりで、たまたまこのブログ読んでる人だって結構いるだろ!!
エイプリルフールでもないのに、唐突に大嘘だらけのウソ問答してどうするんだよ!!
主:次回もお楽しみに!
客:無視かよ!