最近見た夢

 

 

私はいつも単純な夢ばかり見る。

例えば、昼間「Aという奴は嫌な野郎だな」と思っていると、その晩に自分がAを殴り倒す夢を見たりする。

「明日は傘を忘れたら困るな」と考えていると、傘を忘れて困る夢を見る。

「十万円ほしい」と思っていると、謎の人物から通帳に十万円が振り込まれたという夢を見る。

「イカのフライをたくさん食べたい」と思っていると、「イカのフライ山盛り定食」を食べる夢を見る。

しかもストーリーがなくて一場面だけ、ワンカットでお終いという程度の長さである。

映画でもなく、コントでもなく、CM風である。あるいは不条理四コマ漫画の最後のコマだけがちょん切られて三コマになってしまったかのような、イメージの断片という感じだ。

何かの本で読んだのだが、ストーリーの整った夢をよく見る人は意志が強く、断片的な夢ばかりの人は意志が弱いらしい。これは特に根拠を示されなくても、納得できる説である。だからずっと忘れないでいる。

さて、そんな私が最近、ややストーリーのありそうな夢を見た。

自分が将棋のプロ棋士になっていて、普段はあまり活躍していないのだが、たまたま調子がよかったらしくタイトル戦で羽生四冠と指しているという夢である。

 

将棋世界Special Vol.2「羽生善治」?将棋史を塗りかえた男?

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しかも自分が勝つ寸前で、相手の羽生善治がズルをして持ち駒の金を勝手に盤上に置くのである。それを誤魔化して、関係者がたまたま周囲にいないタイミングで「あ、指し直しですね」とか言って有耶無耶にしてしまう。

あまりの出来事に私はポカーンとしてしまい、

「今、ズルをしたじゃないですか!金を勝手に置いただろ!」

とは言おうにも言えない……、

という夢であるが、我ながらかなり図々しい夢としか言いようがない。

どこが図々しいのか、よく分からないという人のために解説してみよう。

 

 

図々しいポイント1.プロ棋士になるのは大変!!

 

単にプロ棋士になるのだって、奨励会だの三段リーグだのを潜り抜けなければならないのである。確率的には東大に入るより何十倍も難しく、ちょっとやそっとでなれるというものではない。

私はせいぜいアマチュアの1級か初段程度の腕前だが、それでも三段リーグが猛烈に厳しいことくらいは理解しているつもりだし、あらゆるプロ棋士に対する敬意を持っている。碌に将棋を知らない癖にタイトル戦の観戦記を書くような図々しい作家は、依頼されても断わるべきだと常々思っているほどである。

 

 

図々しいポイント2.タイトル戦に出るのはもっと大変!!

 

プロ棋士になったところで、負け続ければやっていけないし、勝てば勝つほど強敵と当たる確率が増える一方である。タイトル戦の挑戦者を決めるまでの過程には、トーナメント形式のものとリーグ戦形式のものと二種類あるが、いずれにせよ「ほぼ全棋士の全レベルに勝ちまくりました!」という状態にならないとタイトル保持者とは戦えない。

その「挑戦者」になれる枠すら、年に一名という厳しさである。

「生涯ただの一度もタイトル戦の番勝負には出場していません」

という棋士がほとんどで、ここ十年でタイトル戦に出場できた棋士はせいぜい上から数えて二十名ほどである。それなのに自分がタイトル戦に出ているとは、夢の中とはいえ大胆すぎる。

 

 

図々しいポイント3.羽生さんに勝てるという前提が図々しい!!

 

「今年は調子がいい!」「絶好調!」というあり得ないほどラッキーな状態になって、勝率が8割や9割になったとして、そこで初めてタイトル保持者である羽生王座、羽生王位、羽生棋聖、羽生名人などに挑戦できる訳だが、ほとんどの挑戦者は負ける。せいぜい勝っても一勝か二勝できれば良い方である。ちなみに今年、羽生の持っているタイトルに挑戦した皆さんの結果は4-1、3-1、4-1、3-2というスコアでいずれも羽生が防衛である。

いくら夢の話とはいえ、私が勝つことになっているという設定は図々しいにも程がある。

 

 

図々しいポイント4.羽生さんはズルをしない!

 

将棋は最も不正や偶然の入る余地の少ないゲームである。相手の状況もこちらの状況も互いに丸見えで、ハッタリが全く通じない。

ましてタイトル戦で羽生さんがズルをするなど、あり得ない上に不可能である。いくら夢の話とはいえ、こんな夢を見ること自体が図々しい。将棋連盟から訴えられても文句を言えないほどである。

 

 

図々しいポイント5.羽生さんは誤魔化さない!

 

仮に何らかのルール違反を羽生四冠がしでかしたとしても、それを誤魔化すような人ではないのである。

 

 

おそらくこの夢の母胎となったのは、上記の「巧妙に千日手にします」発言である。しかし百万回生まれ変わって私がプロ棋士になったとしても、こちらの勝勢で相手がズルをして、しかも相手がそれを誤魔化すという可能性はゼロ以下である。

夢の中とはいえ神にも等しい羽生様を悪者扱いするなど、世が世なら不敬罪で逮捕されて、電気椅子送りになったとしても不思議ではない。

 

という訳で、皆さんはくれぐれもこのような夢を見ないよう、気をつけて睡眠をとって下さい。

 

お題「最近見た夢」

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