八大タイトルを分け合う時代とその前後

 

 

先月のニュースで個人的に興味深かったものとしては、将棋界で「八大タイトルを8人で分け合う群雄割拠の状態に」というものもあった。

 

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将棋の世界ではタイトル戦で優勝すると呼び方まで変って、昨日までは「◎◎六段」だった人が急に「◎◎名人」とか「◎◎王将」といった称号がつくようになるのである。しかも複数のタイトル戦で優勝すると「◎◎二冠」やそれ以上になってくる。

上の記事にもあるように「複数タイトル所持者がいないのは1987年以来31年ぶり」とのことだが、この理由のほとんどは「羽生(最低でも)二冠~(最大で)七冠」という時代が長く続いたせいである。後世の将棋ファンは今の時代を「平成」などという年号は使わずに「羽生複数冠時代」とでも呼ぶようになるかもしれない。

しかし将棋を知らない人にかぎって訳知り顔で「羽生さんも、すっかり衰えちゃったね」などと同情混じりに言ってくるので腹立たしい。むしろ羽生一強時代が三十年も続いて「羽生以外の全棋士のうち上位数名が、やっと同じ列まで瞬間的に追いつきました」という方が事実に近いのではないかと言いたくなるが、実質的に他の面子は一般の人々にほとんど知られていないので説明しようにも会話にすらならない。

このブログを読んでいる皆さんは「佐藤天彦名人、高見泰地叡王、菅井竜也王位、中村太地王座、渡辺明棋王、久保利明王将、豊島将之棋聖」という名前から、その人がどんな顔をしているのかを思い浮かべることができるだろうか。

 

将棋世界 2018年8月号(付録セット)[雑誌]

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きっとできないと思う。一般的な常識のレベルとして求められそうなのはせいぜい渡辺明か佐藤名人までで、その他は一人も知らない、というのが普通ではないだろうか(余談だが「将棋世界」の表紙にある「オレが高見泰地だ」という見出しは「高木ブー伝説」を意識しているのだろうか?)。

しかしそれでも将棋ファンとしては日々の対局は勿論、トーナメント戦などでも頻繁に「タイトル保持者vsタイトル保持者」というカードが飛躍的に増えるので、たいへん嬉しい。それにこの「八大タイトルを均等に分け合う」という現象自体が珍しいので、一瞬で終る花火を見ているような感覚も少々ある。

もしかすると来月あたりでこの状態は消滅して、来年からは「藤井複数冠時代」になってしまい、しかもそれが三十年ほど続く可能性すらある(つい先月まではそういう時代だった訳だし)。書いているうちに興奮してきて、何を書く予定だったのか見失ってしまったので、そのうちまた機会をあらためて続きを書きたい。