「坊っちゃん」の語順を変えてみる 01

 

 

前回の分を少し整理して、並べ替えた文章は引用風に四角で囲ってみた。

前回の記事はこちら。

 

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小供の時から親譲りの無鉄砲で損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて腰を抜かした事が一週間ほどある。そんな無闇をなぜしたと聞く人があるかも知れぬ。深い理由でも別段ない。

 

首を新築の二階から出していたら、同級生の一人が冗談に、そこから飛び降りる事は出来まい。いくら威張っても、弱虫やーい。としたからである。小使に負ぶさって帰って来た時、二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かすがあるかとおやじが大きな眼をしてったから、この次は飛んで見せます抜かさずにと答えた。

 

解説:最後の「この次は飛んで見せます抜かさずに」と標語風に応えるところが原文より30%増しくらいで妙である。

 

 

西洋製のナイフを親類のものからって奇麗を日にして、友達に見せていたら一人が云った、光る事は光るが切れそうもないと。何でも切ってみせる、切れぬ事があるかと受け合った。そんなら切ってみろ君の指をと注文したから、この通りだ何だ指ぐらいと右の手の親指のをはすに切りんだ。ナイフが小さいのと、親指の骨がかったので、親指は今だに手に付いている。創痕はしかし死ぬまで消えぬ。

 

解説:「そんなら切ってみろ君の指をと注文したから、この通りだ何だ指ぐらいと右の手の親指のをはすに切りんだ。」この辺りのリズムというか、調子が妙によい。最後の一文はやけに格好いい。

 

 

東へ二十歩を行きすと、庭にいささかばかりの菜園が南上がりにあって、の木が真中に一本立っている。命よりこれは大事な栗だ。実の熟する時分は学校で食う、起き抜けに背戸を出て落ちた奴を拾ってきて。菜園の西側が質屋の庭続きで山城屋という、この質屋に勘太郎という十三四のが居た。無論勘太郎は弱虫である。四つ目垣を乗りこえて、弱虫のに栗をみにくる。ある日の夕方とうとう勘太郎をまえてやった、折戸れて。を失って、勘太郎はその時一生懸命に飛びかかってきた。二つばかりうは年上である。力は強いが弱虫だ。こっちの胸への開いた頭をてて、ぐいぐいした拍子に、勘太郎の頭がすべって、おれのの中にはいった。邪魔になって手が使えぬから、無暗に手をったら、袖の中にある勘太郎の頭が、ぐらぐら右左へいた。しまいに苦しがって、おれの二のへ袖の中から食い付いた。痛かったから勘太郎を垣根へ押しつけておいて、向うへ足搦をかけてしてやった。菜園より六尺がた山城屋の地面は低い。勘太郎は半分四つ目垣をして、真逆様に自分の領分へ落ちて、ぐうと云った。勘太郎が落ちるときに、おれの袷の片袖がもげて、手が急に自由になった。その晩山城屋に母がびに行ったついでに袷の片袖も取り返して来た。

 

解説:下手な翻訳文のような、変な倒置法が増えた。主語はなるべくシンプルに、文章の前の方にあるべきという原則から外れた文が増えると、かえって坊っちゃんの野性味がよく表現されているように思えなくもない。

逆に主語が前に来たために、すっきりした箇所もある。

 

 

いたずらはこの外大分やった。肴屋と大工の兼公をつれて、茂作人参畠をあらした事がある。人参の芽が出揃わぬ一面にいてあったから、その上で三人が半日相撲をとりつづけに取ったら、みんな人参がみつぶされてしまった。田圃古川の持っている井戸めてを持ち込まれた事もある。太い孟宗の節を抜いて、深く埋めた中から水がき出て、水がそこいらのにかかる仕掛であった。その時分はどんな仕掛か知らぬから、石やちぎれを井戸の中へぎゅうぎゅうし込んで、水が出なくなったのを見届けて、うちへ帰って飯を食っていたら、真赤になって古川が怒鳴り込んで来た。罰金を出してたしか済んだようである。

 

解説:さすがに「古川の持っている田圃の井戸を埋めて」はどうにも動かしようがないと諦めかけた。これは苦しかったが、「田圃の古川の持っている井戸を埋めて」としてみると「田圃の古川」という部分が、あだ名のような言い回しになって、これはこれで後の伏線にまでなっているような気がしてきた。

今後は、一文が短すぎてどうにもならない場合は一つ前の文や一つ後ろの文に飛ばすか、それでも無理なら二つ前や二つ後に飛ばそうかと思っている。しかし一応、ギリギリまで一文の内部で済ませたい。

青空文庫から文章をコピペしてきてから並べ替えているのだが、「みず」と平仮名のままになっている部分は「水」としておいた(手許にある筑摩書房の全集では漢字になっている)。

これからもコツコツと、一段落ごとに進めてみたい。