古い雑誌を読んでいたら007シリーズを評して、こんなことが書いてあった。
「フレミングのアイディアの凄いところは、スパイという、暗い、地味な、陰険ですらある職業を、派手で陽気でゴージャスなものとして裏返して設定してしまったことだ。」
「現実のスパイという職業には国家や主義・思想という概念に殉ずる性質があるのだが、こと、彼の作品に登場するスパイたちに限り、敵も味方も、そのような抽象信仰を一切持ち合わせていない。」
言われて初めて気付いたが、私の頭の中では「現実の暗いスパイ像」と「007に代表される明るいスパイ像」とは完全にごちゃ混ぜになっていた。
確かに007は逆転的な発想の産物なのだ。
ここで思い出したのが「マルサの女」で、あの映画は本来は嫌われ者である「税金を徴収する側」が主人公で、脱税をする側が悪者。で「税金を取られるのは嫌だ」と普段思っている観客のほとんどがなぜか「税金を取る側」に肩入れしてしまう、という逆転的かつ苦みのある構図になっているのだ(と「『マルサの女』日記」に書いてあった)。
ということは、現実に暗く、じめじめしていそうで、嫌われ者っぽい存在を、明るく、楽しく、おしゃれに、逆転したイメージで描けば、それはフィクションとしてはとても面白い存在になるのだ。
例えば企業の内部告発者はどうか。正義と言えば正義だが、裏切り者っぽく見られたり、陰湿な圧力がかかったりする存在である。
そこをあえて、
「明るく、楽しく、我が社の実状を金融監督庁にタレこみま~す!」
「ポップに、オシャレに、カエルの肉を鶏肉と称して売ってるってことをバラしま~す!」
なんて感じでミュージカル映画にしてはどうか。
優香と竹中直人の「恋に唄えば」よりはヒットすると思うのだが、「恋に唄えば」が存在しなかったことになっているというか、誰も知らないので喩えにならないのであった……。
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