「決断の3時10分」

 

 

ジョン・トラボルタ主演の「ゲット・ショーティ」「ビー・クール」の二作の原作はエルモア・レナードで、この種の犯罪ものを書く以前、60年代までは西部劇小説を書いていたのだという。

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それだけなら大した話でもないが、この人の書いた短編「三時十分発ユマ行き」は後に「決断の3時10分(1957)」という映画になっていて、さらにリメイクされて「3時10分、決断のとき(2007)」になったというので、それなら自分も観た記憶がある。

 

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映画化に際して原作はあれこれ脚色されたり、直しも入ったりするものだろうが、それにしてもおちゃらけた雰囲気の「ゲット・ショーティ」のような映画とシリアスな「3時10分、決断のとき」が同じエルモア・レナードの頭から発生したとは、なかなか気がつかない。「エルモア・レナード映画祭」でもやればいいのに(「午後のロードショー」で)。

 

オンブレ (新潮文庫)

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で、「短めの短編」と「長めの短編」があるとすると、原作の「三時十分発ユマ行き」は村上春樹訳の文庫で30ページほどしかないので、明らかに短い方である。実際に読んでみると「3時10分、決断のとき」の終盤部分だけの話になっている。

つまり強盗団のボスを駅のある街まで護送する、といった旅路の途中のあれこれはスッパリ抜け落ちていて、後は列車が来るのを待つだけ、しかし手下どもがボスを強奪しに来るはず、という段階から始まるのであった。

 

決断の3時10分 (字幕版)

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では最初に映画化された「決断の3時10分」はどうなっているのかと思って観てみると、やはり随分と話を膨らませている。

原作ではボスを護送する主人公は、ポール・スキャレンという名前の保安官補である。

「決断の3時10分」では、主人公が牧場主になっていて、200ドルの金のために護送を申し出ることになる。味方も一応、いることはいるのだが頼りなさそうなお爺さんばかりで、ボスを奪い返すために強盗団の手下が7~8名ほど襲い掛かってくると、「やっぱり怖いからやめた」と言って去るか、「自分は死ぬわけにはいかないんだ」と言い訳して去るか、呆気なく殺されてしまうかである。そして結局のところ、「孤立無援」を絵に描いたような状態になる。

その後の展開も、原作と「決断の3時10分」と「3時10分、決断のとき」では同じといえば大筋では同じ、違うといえばあれこれと違う。

例えば主人公の妻子は、原作では会話の中にしか出てこないが「決断の~」では中盤でも終盤でも実際に出てくるのである。特に妻は精神的に揺さぶりをかけて「英雄になんかならなくたっていいのよ」と泣くので、観ている方まで心がグラついてきてハラハラする。また「3時10分、決断のとき」では、息子との関係性が強調されていたように記憶している。

三作ともそれぞれ味わいが異なって、それぞれ魅力があるが、どうもこれは原作者の功績というより、最初に映画化した際の脚本家ハムステッド・ウェルズの功績が大であるように思える。