「ルパン三世 カリオストロの城」

 

 

かの有名な「カリオストロの城」だが、通して全部を見るのはかなり久々である。

この作品を最初に見たのは、恐らくテレビ放映の二回目になる1982年、当時の自分は12歳である。

一回目の1980年の時は見逃して、友達から「あんなに面白いのに見逃すなんて」と言われたが、そもそも「ルパン三世」はあまり興味が持てないアニメで、夕方に再放送をしていたら一応見る、というくらいの意識でしかなかった。

その前後に雑誌「アニメージュ」で色々な記事を読んだ覚えがある。何度も見るとBGMがくどいとか、淀川長治が絶賛していたとか、外国人に見せたら好評だったとか、元になっているのは「時計塔」と「緑の目の令嬢」、「やぶにらみの暴君」「王と鳥」だとか。

実際に見てみると確かにすごい作品で、もちろん惹かれたのだがその面白さを説明できなかった。面白いことは面白いが「普通の映画とは違う」と感じられた。

当時、自分が持っていた違和感は、

「もともとのルパン三世の設定をあまり説明していないから、初めてこれを見た人には次元や五右衛門との関係など、よく分からないのでは?」

「人物を紹介しながら始まる映画とは違うので、比較しづらく半端でアンフェアな気がする」

といったものである。

鬼滅の刃」が映画化された時にも「ストーリーの途中だけを映画にするのか」「それで大丈夫なのか?」と感じたが、それに似ている。

 

また、しばらく経つと、今度は別の疑問も湧いてきた。

それは、

「ルパンは少しも勝っていないのでは?」

「なのに、なぜ面白いんだろう?」

「これでいいのか?」

という疑問である。

序盤は、クラリスを助けようとして奪われてしまう。

中盤は、クラリスを救い出そうとして失敗する。

終盤は、取引を持ちかけるが時計台から落ちてしまう(ぎりぎりでクラリスは助ける)。で、最後の銭形の有名な台詞で、いわば口先だけで誤魔化されているのでは……。

と感じたのであった。

 

 

今回、大人の目で見直してみて、結構そのあたりの疑問が解消された。

整理すると、この話は、お姫様「クラリス」の奪い合い、物としての「指環」の争奪戦、城の地下にある「偽札工場」の秘密を暴露するか阻止するかの駆け引き、この三つの筋が並行して流れている点がよい。

さらに、ルパンと伯爵の「命」の奪い合いもある。ただし、ルパンは積極的に伯爵を殺そうとまではしないが、伯爵は容赦なく殺す気が満々なので結構なハンデがある。

これら四つのうち、Aは奪われるがBは渡さない、Cでは負けるがDではギリギリ勝つ、といった調子で、攻守が目まぐるしく入れ変わる。

これだけだと単純なプラスかマイナスか、のリズムの繰り返しになってしまうところだが、たとえば伯爵視点からすると、

「ルパンを消すために地下に落とす→かえって本物の指環を遠ざけてしまう→最も近づいてほしくない偽札工場に誘導してしまう」

という流動的で逆説的な流れもあるため「プラスに見えてマイナス」「短期のマイナスに見えて長期のプラス」も含まれている。

 

 

さらに、二人とは価値観の異なる銭形警部や不二子(偽札の原版だけが目的)が道化師やジョーカー的な役割になって、リズムに変化を与える。

たとえば銭形は、中盤の終わりで「クラリスを助けるルパン=善」「伯爵とその手下=悪」という構図が鮮明になる中、「営利誘拐ではないだろうな?」という視点を持ち込む。

やはり中盤で、ルパンを助けた方が自分にプラスになるような場合には、

①銭形は休戦協定を結んで脱出するし、

②不二子はルパンを救うために秘密を暴露する(襟の裏に隠すという癖)。これはルパンのプライドにとっては大損に見えるが、結果的にはその場にいる全員の収支決算がギリギリでプラスになって収まる。

二人とも自分の価値観に忠実に動いているうちに「銭形+不二子」の足並みが揃う終盤など、「敵の敵は味方」的な、論理の曲芸のようで実に見事である(ルパンにとっても利益になる)。

こうして振り返ってみると、主に四つの宝、四つの価値観が入り乱れる訳で「よくぞここまで」とあらためて感じる。

 

子供の頃に感じた疑問にいま答えるとするなら、

 

1.もともとの「ルパン三世」の設定を説明する必要がないほど、この映画では銭形と不二子のキャラクターが立っている。それは価値観が「ルパン」「伯爵」と大きく異なるためである。

*本作の次元と五右衛門は、立場的にはルパンの相棒で、価値観が同じなので補佐的な役割しか果たしていない。

 

2.クラリスの奪い合いという視点から見ると、本作のルパンは負けている時間が多く、あまり勝てていない。しかし本作には「指環の奪い合い」「偽札作りの暴露」「命のやり取り」といった筋も含まれており、それぞれで最終的にはルパンが勝っている。

クラリスは監禁された状態から自由になった。指環の謎は解け、ローマの遺跡が現れ、偽札づくりは世界中に暴露され、伯爵は死亡。ついでに「あなたの心」も奪う。

 

これまでも当然、大筋は知っていたし、細部もよく覚えていたつもりだった。

しかし再見してみると「知ってはいたものの理解しきれていなかった……」というのが正直なところで、やはり名作は二度三度と見直した方がよい。

 

そういえば以前、こんな記事↓も書いていた。

 

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