今週のお題「おとな」
「浮草」は小津映画の中では異色作という扱いになっているが、私の場合は「東京物語」や「晩春」よりもこちらの方が感覚的にしっくりくる。
この映画を最初に観たのは、確か何年か前のお正月だったよな~と思って調べてみたら、
何と、2003年の1月9日のブログに記録があった。ちょうど干支がひと回りしてしまった。
ちょっと驚いたのは、中村鴈治郎の野郎がビシビシ女性に張り手をくらわす点である。
「言え!言わんかい!」とか言いながらバシッ!ビシッ!
ともう、くらわすの何の。
しかも腕を背中の方にねじり上げて、関節技きめて「これでも言わんか!」とそこまでやるし、男にもやるし。
しかもやられた方も「そういうものですから・・・」という感じで、猛烈に反抗する訳でもないし、そういう世の中だったんだね。
と、暴力的な鴈治郎の態度に納得しているが、今「フェミニズムが……」「ジェンダーが……」といった議論を戦わせているはてなブロガーがもしこの映画を観たら、気絶しそうな場面が結構多い。
しかし最後まで観るときちんとバランスが取れてはいるし、そう女性ばかりを虐待している話でもない。それに、見かけと違ってスリルがあってユーモアがあって、予測不可能と言いたいほどの意外性もあるのだ。
また音楽や美術も独特すぎるほど独特なので、映画の中の世界そのものが特殊な雰囲気になっている。そのため、ビール瓶や自転車やポスターまでもが演技をしているように見える瞬間もある。
小津映画を知らない人にとっては、納得のいかない言動や心理、聞き取れない台詞もあるかもしれないが、簡単に予想や要約のできる映画が多すぎるので、そういう映画に飽き気味の大人にとっては退屈する暇もないほどのご馳走である。京マチ子と若尾文子の二人を追うだけでも目が楽しい。