回文とか短歌をひねり出そうとして、脳みその変な部分を酷使していると急に変なことを思い出したりするぜ。
この前は、急に昔飼ってた猫のマヤちゃんのことを思い出しちまった。
マヤちゃんは拾ってきた白と黒の猫で、生まれつき爪が出っぱなしだった。
その上、肉球もいびつな形で、おまけに尻尾はくの字に曲がりっぱなしで、かなりワイルドな雰囲気の野生児だったぜ。
俺の親父は「奇形児」って言ってたけどな。
でも顔つきは割と可愛い方で、オスでも可愛いから俺は「マヤちょわ~ん!」と呼んで、最初のうちはこねくり回して可愛がってやってたもんだぜ。
そのうち「マヤちゃん」から「マー」になって、返事も「にゃあ」が「にゃ」になってきて、次第に省略化が進んだのさ、お互いにな。
最終的には「マ!」と呼んでも「フン……」とも言わなくなって、ほぼ知らんぷり状態で尻尾を1ミリ程度だけ、ピクッと動かすだけにまでなったぜ。
そんなマヤちゃん、略してマーちゃんだが、一度、近所の猫と大喧嘩しやがったのさ。
この世のものとも思えねえような叫び声を双方があげて、壮絶な戦いを繰り広げた後で、顔から血を流して震えながら帰宅してきやがった。
オデコから眉間を通って、右の頬まで一直線に真赤な切り傷を負って帰ってきたから、正直、かなり魂消たぜ。
血が地面に落ちた時に、
「ボタッ……、ボタッ……」
って音を立てるのは、ありゃ漫画の世界の擬音じゃねえんだ。
本当に、現実の世界でもそういう音がするってことを、そん時に初めて知ったぜ。
で、三日三晩くらいは寝込んでたが、すぐ完治してケロッとした顔で復活してたぜ。
行きつけの動物病院の先生の話だと、尻を引っかかれる猫は喧嘩に弱い、負けた猫で、顔を引っかかれてるのは相当に強い猫なんだってよ。
当時は、
「さすがマーの奴は強いな……」
と妙に感心したもんだが、あれから二十年も経って、いま冷静に考えてみると、相手は一体どれだけの深手を負ってたんかな?ってことの方が気になるぜ。
もしかして、重傷とか半殺しじゃなくて、その場で即死してたんじゃねえのかな。
それでボロ雑巾みてえになって、カラスに突かれてたのかもしれねえよな。
人間だったら、「一生かけて罪を償う」みてえな、そういうレベルの罪業だぜ。
けど、その後もマーの奴は、反省なんか全くしちゃいなかった。
気に入らないことがあると俺の母親の新品のバッグにおしっこを注ぎ入れたり、ねずみの死骸を大量にコレクションして見せてくれたり、悪行三昧の限りを尽くしてくれたぜ!