以前、と言っても2,3年ほど前に服部真理子という人の短歌に惹かれて、雑誌を何冊か買ったことを思い出した。
調べてみると今ではこの人は歌壇賞という賞を獲っている。
検索してかき集めると、この人の短歌をあっという間に五十首くらいは揃えることができる。
それをそのままドバッとこのブログに載せてしまうのはいかがなものかと思うので、絞りに絞って十首だけ紹介してみたい。
どの町にも海抜がありわたくしが選ばずに来たすべてのものよ
塩の柱となるべき我らおだやかな夏のひと日にすだちを絞る
金貨ほどの灯をのせているいつの日か君がなくしてしまうライター
草原を梳いてやまない風の指あなたが行けと言うなら行こう
天国がどこにあっても蹄鉄がきっと光っているから分かる
回るたびこの世に秋を引き寄せるスポークきらりきらりと回る
おだやかに下ってゆけり祖母の舟われらを右岸と左岸に分けて
けれど私は鳥の死を見たことがない 白い陶器を酢は満たしつつ
新年の一枚きりの天と地を綴じるおおきなホチキスがある
音もなく道に降る雪眼窩とは神の親指の痕だというね
この人の短歌を読んでいると、自分の体や精神の乱れが少しずつ鎮まって、落ち着いて整うような感覚がある。
穂村弘は短歌を「ワンダー」と「シンパシー」に分類しているが、そのどちらでもない穏やかさと静けさと美を感じる。
歌集が一冊だけ出ているのでさっそくアマゾンで買ってみたが、届いてもすぐに読み終えてしまうのが勿体ないので、わざとスローペースでチビチビ読んでいる。
自分ひとりだけで独占しておきたいという気持ちと、もっと多くの人に知られてほしいという気持ちがせめぎ合うファン心理を久々に味わった。