以前紹介した句集「蜂の巣マシンガン」の選句をしたのが前回の「魅了する詩型」を書いた小川軽舟で、つまり師弟関係である。小川軽舟のそのまた師である藤田湘子が書いた入門書がこの本になる。
本書は二十週間かけてカルチャーセンターの「俳句講座」に通う気分を味わえるように週別の構成になっている。
最初は心構えや必需品、俳句の定義などで、後半は実作のための課題や宿題が出て、俳句仲間風のキャラクターも登場する。
ちなみに藤田湘子の「湘子」は「しょうこ」ではなく「しょうし」と読む。私はてっきり女性歌人だと思いこんで読み始めて、
「やけに威勢のいいババアだな!」
と毒蝮三太夫風に内心で毒づきながら読んでいて、途中で知ったのであった(本人が本文の中でその件に触れる)。
俳句界の重鎮藤田湘子が、長年の俳句指導から得た4つの基本形式を活用した早期上達法をあなたに伝授。俳句のイロハである「切字」「取り合わせ」等を“分かりやすく”説明し、“狙いはかなり高度”なところを目指し、初心者でもこれを“しっかり読み”“忠実に実践”すれば、20週でひとかどの俳句が作れる実践書。
しかし二十週間かけてこの本を読む人はおそらくいない。
この本の売りは、基本的な「型」に言葉を当てはめれば俳句は詠めますよという、いわば近道的な思想が土台にあるので、時間をかけて学ぶという態度を貫くのは困難である。そういう訳で私も二時間ほどで読了してしまった。型というのは例えば、
(季語+切れ字)+(上五と関係ない話題にして最後は体言止め)
といったものである。
例としては「名月や男がつくる手打そば」「七夕や風のしめりの菓子袋」など。
型に言葉を当てはめれば、それなりに俳句としての体裁は整うのだという方針は本当にその通りで、いきなり「自由に詠んでみよう!」と言って放り出されるよりも遥かに効率がよい。
算数の文章題を読んで、公式のどの部分にどの数字を当てはめるかを考える練習をすれば解けるようになりますよ、と主張する学習塾の先生のようで、つまり俳句の先生とは思えないほど論理的な先生なのである。
この「型」のトレーニング部分の他にも、
「季語とその他の部分が『だから』でつながるようだと駄目」
「季語を修飾しても効果はない」
「発端・経過・完了のうち完了の時点を詠むとその前も連想してもらえる」
など、ちょっとした指摘になるほどと思うような所が幾つもあった。
中でも16週の「ありうべき嘘」として「状況設定を変更すべし」という教えはちょっと珍しいアドバイスではないかと思う。事実として「夕方に風呂に入った」としても、朝湯にしてよければそうしなさいという意味である。これは短歌にも言えることではないか。
また、二十週目で終ったその後のアドバイスも最後にあるので、かなり至れり尽くせりになっている。詠み方の本を探している人へは☆四つである。