「八十八句」は丸谷才一の句集である。
しかしこの本は非売品で、全集の初回配本分の特典になっていたもの(注:後に「七十句」と合わせて文庫化された)。
私は全集を買った訳ではなくて、たまたま図書館にあったので借りて読んだ。
中身は題名の通り「八十八句」からなるかというとそうではなくて、実際は百四句ある。
今度『七十句』 以後の作をまとめて出してもらふことにしたが、句数は題と揃へてあるわけではない。いい加減である。これも俳味と受取つてもらへると嬉しい。
とあとがきに記されている。
「春」「夏」「秋」「冬」「新年」と分かれているので、順番に何句か紹介してみたい。
まずは「春」。
生きたしと一瞬おもふ春燈下
この句には添え書きがあって「金沢にて癌を告知されて帰京し、仕事場にて」とある。
私は仕事柄、いつでもがん保険のことを考えていたりするので、丸谷才一はがん保険に入っていたのであろうか、などと変なことを考えてしまった。
次は「夏」から。
かたつむり耳を澄ませば啼くごとし
さくらんぼ 茎をしばらく持つてゐる
風通りよきをよく知る犬なりし
引出しの暗がりにありし扇かな
この新じやがは新じやがの味がするのであつて
最後の「新じやが」の句は変な音数だが、「吉田健一の文体を真似て」と書いてある。論理的であるような、そうでないような、独特の調子である。
続いて「秋」。
枝豆の跳ねてかくれし忍者ぶり
「枝豆」は夏っぽい言葉だが、季語としては秋になる。
冬は飛ばして、最後に新年の句から。
正月や肉魚酒ウィーン・フィル
これも添え書きがあって「衛星放送のマゼール指揮ヨハン・シュトラウスを聴きて」とある。
ウィーン・フィル / ヨハン・シュトラウス、ベスト・オブ・ワルツ&ポルカ
- アーティスト: ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団,J.シュトラウス,マゼール(ロリン),カラヤン(ヘルベルト・フォン),アバド(クラウディオ),ボスコフスキー(ウィリー)
- 出版社/メーカー: ポリドール
- 発売日: 1998/12/27
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お正月にウィーン・フィルにおせち料理に酒、という取り合わせはいかにも丸谷才一っぽくて、華やかで軽くて粋な感じがある。