【前編】の続き。
6.紫陽花
「紫陽花」という喫茶店あり半額のケーキを睨む新世界
「紫陽花」といっても最初は何もイメージが湧かなかった。
何となく喫茶店の名前でありそうに思えたが、秋や冬にはそぐわないので実際には無い感じがする。
しかし「迷った先にたまたまあった喫茶店」という雰囲気には合っているので「曲がり角」のお題で使った「新世界」をまた利用した。
「紫陽花」という喫茶店あり半額のケーキを睨む新世界
7.つばめ
戦略や予定やノルマのないブログ 鴨川つばめの如く輝け
戦略や予定やノルマの消えた昼下がり 鴨川つばめの如く虚ろな
戦略や予定やノルマの失せた昼下がり 鴨川つばめの如く虚ろな
鴨川つばめは、伝説的なギャグ漫画「マカロニほうれん荘」を描いた人で、その後はほとんど漫画を描いていない。
マカロニほうれん荘全9巻 完結セット (少年チャンピオン・コミックス)
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最初は「鴨川つばめの如く輝け」としていた。しかし皮肉っぽい意味が出てしまうので、「鴨川つばめのように虚ろである」という形にした方が落ち着くと考えた。
「昼下がり」は何となく好きで使ってしまうので、「白い昼」に変えた。
これも道に迷って新世界に入った連作の中の一つ。
知らないガラーンとした場所に目的もなくいることによって、かえって心が静まり落ち着くという感じである。
戦略や予定やノルマの失せた白い昼 鴨川つばめの如く虚ろで
8.袖
金色の未来人らの身にまとう袖の長さのずれてるパジャマが爆弾
金色の未来人たち身にまとう袖の長さのずれてるパジャマが爆弾
金色の未来人たち身にまとう袖の長さのずれてるパジャマ型爆弾
両袖が色違いであるとか、左右の靴が色違いになっているデザインが好きで、見ると「いいね~」と思う。しかし、さすがに自分では着ないし、袖の長さが異なるファッションとなると桁違いに着こなし難度が高い。
しかし、金色の未来人なら着ているかもしれないという空想的な歌である。
ちょうど雪舟えまという歌人の本(「たんぽるぽる」)を読んでいたので、その辺りの影響もある。
また、「主語が長い」というタイプの短歌を一度やってみたかったという願望もある。
金色の未来人たち身にまとう袖色まちまちパジャマが爆弾
9. 筍
ここはどこ駄菓子屋の軒に佇めば段ボールあり「筍の里」
「ここはどこだろう」と思ってふと見ると「たけのこの里」の段ボール箱が眼に入ったよ、というそれだけの内容である。
これはなぜか思いついてすぐ「完成」という気になった。
ここはどこ駄菓子屋の軒に佇めば段ボールあり「筍の里」
10.たらちねの【枕詞】
夕暮れに呑まれし子猫の引っ掻いた
闇に呑まれた子猫の爪あと
たらちねの母も迷いし新世界 闇に呑まれし猫の掻き傷
たらちねの母も帰らぬ新世界 掻き傷だらけの看板ぎらり
これも新世界に紛れ込んだ連作にした。
最初は闇に猫が呑まれてゆくとか、墓場に迷い込んで墓石を見たら自分の名前が刻み込まれていたとか、ホラー的な光景をあれこれ考えたのだが、結局は「別に戻らなくてもいいや」という線にした。
「新世界」というと大阪にそういう名前の場所があるので、そっちで解釈して貰ってもいいかなとも考えた。
ここからまた1に戻って、「気球が自分を吊り上げてくれると思ったら、内臓や血管だけを持っていってしまった」という風につなげてみたい気もしたが、かえって難しいのでやめた。
たらちねの母も呑まれた新世界 戻れない兼戻りたくなし
総じて今月は、前半の短歌の方がよく出来たという風に思う。引用スターのつけられ方を見ても「梅」「しそ」「傘」などの人気が高いようであった。
あまり悩まずにサッと作ってお終いにするお題と、しつこく手を入れて推敲を重ねるお題と分けることができたので、その辺りが進歩したと言えば言えそうである。