俳優や落語家、作家など芸能人・有名人が句集を出している場合、やはり余技なのでどうしても俳人の句集より見劣りがする。
そういう本を期待しつつ読んでみてガッカリすることも多いのだが、その分、当たりと思える句集にぶつかると嬉しい。
この本は小沢昭一の昭和四十四年一月から平成二十四年七月までの句を収めていて、その数およそ四千句というから驚きである。
全体として親しみやすく、温かみのある句が多く、そしてもの悲しい。
女湯の音ひっそりと宿おぼろ
蝶を追う長女失恋したらしく
言葉づかいの正しき子来て涼し
落第や吹かせておけよハーモニカ
半七の十手磨くや江戸小春
妹を泣かせて帰る猫じゃらし
天下国家をさておいて冷奴
闘牛の負けた牛ひく帰りかな
うぐひすやむかし一枚ヒット曲
死後の世を信ずる妻や春の月
いかにも小沢昭一的な世界で、ノスタルジックで川柳寄りで昭和っぽい(実際に昭和に作られた句が多いのだが、平成の句も昭和っぽい)。
これだけ長い期間の句を通して読んでも、作風の変化がほとんど感じられない点は驚異的とも思える。驚異的と言えばアマゾンのカスタマー・レビューでは十二人中十二人が5点満点にしている。
どの句も情景や心理をつかみ易く、読んでいて疲れない。心がのし棒で伸ばされるような、心地よさを感じるほどである。
私の評価としては☆四つで「必読」とまでは言えないが、図書館にあったら借りて読むことをお勧めする。