今回は意味のわかりにくい短歌が多くなったので、補足的な解説を書くことにした。
1. ファー
春の朝ファーファがいきなり人を食い柔軟剤を飲む四月馬鹿
「ファーファ」は柔軟剤の熊のぬいぐるみのキャラクターである。
「お金なんかちょっとでふわふわだよ」とCMで言っていた。こういう可愛い顔で残酷なことを言ったりやったりというパターンが自分は割と多い。
2. 密
お年玉百年まとめて請求す姪の理想は北への密使
「密」というお題からは「密偵」とか「密使」といった言葉しか浮かばなかった。
前半の「お年玉百年まとめて請求す」と後半が関係あるのかないのか、ハッキリしないような点が売りのつもりである。
3. LED
SEALDsを並べ替えるとASSとなり照らす電球LED
アナグラムで強引にLEDをひねり出した。
「SEALDs」は個人的には好きでも嫌いでもないが、世間的にはあまり好かれていない様子なので、それを少し利用しているような面もある。
4. グレーゾーン
グレーゾーンのZの血を吸った蚊の描く下降線こそ魔球のヒント
「Z」とはゾンビのZである。
グレーゾーンというのは、この場合はゾンビに咬まれて次第にゾンビになりつつある人間を指す。その血を吸った蚊までゾンビの蚊になってしまったのである。
5. くま
行くまでもなき忘年会にて話されるわが性癖という青い妄想
これは特に解説の必要はない。
先日読んだ菊地成孔の「レクイエムの名手」の影響が少々あるかもしれない。
いきなり初対面で「あんた、ド変態なんだって?」と問いかけられるという回想があった。確かそれに対して「噂ほどじゃないっすよ」と応じるのであった。
6. 石
石と右さて本物はいずれかと盗聴器からの煙ひと筋
「石」と「右」は似ているなと思って、二つが並んで「どちらが本物でしょう」と問われたら困るなあと考えたのがきっかけ。単に「本物」と言われても何の本物なのか判断できないから、頭の上から煙が出るのではないかと考えた。
「頭頂」の漢字変換がうまくできずに「盗聴」と出てしまったので、それをそのまま使った。しかし変な味が出て、かえって良くなった気がする。
7. イエス
絢爛にせねば祝えぬ夜のため鞭で打たれるイエス様々
これもほとんど説明するような所がない。
クリスマスの時すら思い出されずに、サンタクロースやトナカイに場を持っていかれているイエス様は気の毒だという感慨である。
そのうち「クリスマスはサンタクロースの誕生日」ということになると思う。
8. 鐘
山ほどの古銭を埋めし教会の鐘にぶつかる銀色の蝿
「鐘が鳴らない教会の鐘に、蝿がぶつかってコンコンと音がする」という風にしたかったのだが、いつの間にか「鳴らない」の部分が消えてしまった。
9. 氷
かき氷、負けるなこっちはパピ氷、むめも氷とやゆよ氷
かき氷の他に「くけこ氷」や「さし氷」「すせそ氷」などがいたら面白いなと考えて、特に変な感じのする「むめも氷」ほかを選んでみた。
「パピ氷」はパピコを削って作るのであろうか。
一応「痩せ蛙 負けるな一茶~」を踏まえているつもりだが、余りにもどうでも良すぎるので理解されなくてもよい。
ちなみに「むめも氷」「やゆよ氷」という字面を見ていると、なぜか安っぽい時代劇に出てくるような、アイドル歌手が演じる町娘を連想する。
10.【枕詞】降る雪の
降る雪の調整ダイヤル消えてなお天にまします我らの降雪機
第一印象としては「降る雪の」という始まり方をすると、もう後に上手く続けることができないと思った。
何を書いても陳腐になりそうというか、とにかく書きにくい。
しかし雪が降っている時にそれを真上から見下ろしていたらどう見えるのか、神様にとって雪とは何なのか、といったことを考えて、あれこれ言葉をいじっているうちに出来た。
今回は第一期の最後なので、全体的な感想を書いておくと、月に一回でお題が十題=十首詠む、というペースや量は、初心者にはちょうど良かった。これは多すぎも少なすぎもせず、速すぎず遅すぎずでぴったりだったと思う。
そもそも、自分は短歌を詠むという機会がこれまで全く無かったので、貴重な体験だった。読むのはまあまあ、これまでにも何冊か歌集を読むことはあったが、自分なりに何か詠んでみようという発想は全くなかった。
もし仮に第一期の参加者が全員、同じ年齢で同じ学校、同じクラスにいたとして、誰かが「短歌を詠んでみようよ!」と呼びかけても、参加する人はそう多くならなかったのではないだろうか。私は人生のどこかでそういう誘いを受けたとしても、参加したかどうか分からない。格好が良い訳でもないし、自信満々という訳でもなく、面倒くさいので、おそらく参加しなかったと思う。
ただネットの場合は、参加してもしなくても自由だし、欠席したからといって文句を言う人もおらず、また再び参加するにしても他の参加者に気兼ねする必要もなく、といった自由な点もやりやすかった。引用スターによる、一種の投票のような形で感想を貰えるのも面白かった。
十数年前のネット状況では、こういう催しには「困った人」が一定数入ってきて、あれこれ文句を言ったり暴言を吐いたり、トラブルを招いたと思うのだが、そういう気配すらなかった点も良かった(最近はネット内よりも、そこから弾き出された不平不満が現実の方に行ってしまったようにも見える。テロや犯罪含めて)。
個人的にはやり始めてすぐ、体言止めが多くなってしまうことに気づいたので修正するようにした。また、説明に終始する短歌もどきになってしまう傾向も強かったのだが、これは他の参加者も含めてかなり難しい問題だったと思う。説明を避けると大抵は意味不明の言葉の残骸になるし、きちんと意味を伝えようとすると単なる説明や解説になってしまう。
それでも月に十作ずつコツコツ貯めていって、九十首できた中から自分で気に入ったものが少しは出来たので、最後に図々しいが自作から十首選んでみたい(8月は休んだので9月から二首選んだ)。
↓
3月
イヒヒ姫とニタ郎サンバに合わせて呪文ふた筋のひとり言
4月
ひとつの命ふた瘤の駱駝に乗せて三家系の王族来たれり
5月
6月
熟れながら背を丸めつつ梅の実が信条のごとく種を抱いて
7月
薄墨の風吹きつける子ら雷に選ばれたなら天国に行け
9月
マッチ一本パパのもの冬きたりなば私の心は火事のもと
くろがねの秋の風鈴から舌を抜き無音なり冬遠からじ
10月
ピアノカラ声ガスルとの声がするその声もまたぴあのカラスルヨ
11月
ひさかたの光のどけき冬ねむる仔犬の香りはビッグマック
12月
降る雪の調整ダイヤル消えてなお天にまします我らの降雪機
自分は幻想、狂気、ナンセンス、言葉遊び、パロディ的な傾向が多くなってしまうのだが、こうして並べてみるとオーソドックスなものも少しある。また季節を描いた短歌の方が、作品としてはやはり寿命が長いようである。