印象に残っている展覧会というと、八年ほど前の「澁澤龍彦 幻想美術館」展を挙げたい。
作家・批評家でありフランス文学者、そして美術エッセーでも大きな足跡をのこした澁澤龍彦(1928~1987)の没後20年を記念する展覧会を開催いたします。
豊かな知識を生かしながら、独自の好みと美意識にもとづく自由な芸術論やエッセーを発表し、従来の美術史にとらわれない新しい美術の見方を体現した澁澤龍彦は、日本の文化・芸術に大きな影響を与え、今もなお人々を魅了し続けています。
本展では、澁澤龍彦が好んだ古今東西の幻想美術家約80人の250点に及ぶ作品とともに、著作・資料・遺品・蒐集品など約50点を通して、60年代以後の日本の新しい文化と芸術をリードし、日本人の美意識にひとつの変革をもたらした澁澤龍彦とは誰だったのか、私たちは澁澤龍彦から何を得てきたのか、そして澁澤龍彦が生きた昭和とはどんな時代だったのかを併せて概観していきます。
澁澤龍彦がその著作で触れていたマグリットやルドン、デルヴォーといった有名画家や芸術家の作品がズラリと揃っており、実に贅沢な企画だった。
当時は没後二十年という触れ込みだったが、あと二年すると今度は没後三十年になるので、また似たような展覧会があっても不思議ではない。今でも再編集版、新装版、文庫化の出版が連綿と続いて衰える気配がないし、何よりあの独特の軽さのある文章は読みやすくて楽しい。軽いと言っても内容が薄くて軽率だという軽さではなく、国宝級の能面や精妙な竹細工の持つような軽さである。
私はギリギリで現役の書き手としての澁澤龍彦に間に合った世代なので、何か一冊勧めるとしたら遺作の小説「高丘親王航海記」になる。この作品が最終到達地点で、かつ入門書としても最適ではないかと思う。ここから出発すると批評、エッセイ、小説、翻訳、日記、アンソロジーと、どの方向へも進みやすいからである。
二冊目が「黄金時代」でも「狐のだんぶくろ」でも「唐草物語」でも「悪徳の栄え」でも「滞欧日記」でも「幻妖のメルヘン」でも筋が通っている。

狐のだんぶくろ わたしの少年時代 澁澤龍彦コレクション (河出文庫)
- 作者: 澁澤龍彦
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2013/02/15
- メディア: Kindle版
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あるいは遺作から「初期小説集」へ進むという手もあるし、
何より「三島由紀夫おぼえがき」と「偏愛的作家論」はいつまでも手放せない、愛着のある著書なのでお勧めしたい。
美術関連もほとんど文庫化されていて、
前述の「幻想美術館」展の図録(大型本)もある。
この本は丁寧な造りで、お勧めである。