焼肉を焼きたくない

 

 

焼肉店で、何人かで焼肉を食べる。

こういうシチュエーションはよくある。家族でも、同僚でも、親戚でも、仲間うちでも。

そういう時に、なぜ人々は肉をよく焼きたがるのだろうか。

「よく焼かなきゃね」とか、「もうちょっと待ってから」とか、そういう風に言いたがり、時間をかけて焼きたがるのはなぜなのか。

「だって以前、食中毒で死ぬかと思うほど苦しんだんだもん!」

なんていう人はほとんどいない。

無意味に近い、盲目的な信仰ではないだろうか。

そもそも牛肉なんて、生で食べても別に死にはしない訳だし、それより早く食べたい気持ちの方が遥かに大きいように思う。

 

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実際、私はいつもじっと網の上を見つめながら、

「みんなは、いつまで焼けば気が済むんだろう?」

と感じながらジリジリしている。

いや、

「ジリジリしていると悟られないように、平静を装っている」

と書いた方が実態に近い。

何が面白くて、諸君はじっくりと焼肉を焼きたがるのだ。

カルビやロースは、ちょっと表面だけ焼いておけばもういいじゃないか。

タンとかひな皮とか、薄めのやつなんか適当でいいじゃないか。

内臓系のホルモンとかミノとか、焼いても固くなるだけじゃないか。

食べたくて仕方が無い俺の眼は遠くばかりみてゐるぢゃないか。

身も世もない様に燃えてゐるぢゃないか。

瑠璃色の風が今にも吹いて来るのを待ちかまへてゐるぢゃないか。

小さな素朴な頭が無辺大の夢で逆まいてゐるぢゃないか。

これはもう焼肉ぢゃないぢゃないか。

人間よ、

もう止せ、こんな事は。

 

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*今回の記事は、書いている途中からなぜか高村光太郎「ぼろぼろな駝鳥」が入ってしまったことをお詫び申し上げます。


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