俳句の本を読む:「金子兜太の俳句入門」金子兜太

 

 

俳句関連の本を大別すると、「句集」「鑑賞・批評」「アンソロジー」「入門書」「歳時記」の5つくらいに分けられる。

そのうち明らかに多そうなのが入門書で、おそらく売り上げ全体の半分近くは入門書によるものではないかと思う。

この本は新聞の連載をまとめたというだけあって、初歩的な段階から小項目ごとに平易な説明が並び、ですます調で分かりやすい。

 

金子兜太の俳句入門 (角川ソフィア文庫)
 

 

しかし平易すぎて、大人の目で読んで感心するようなことはほとんど書かれていない。また、何かにつけて中学生や高校生の句を例として挙げて、いちいち「〇〇高校の〇〇△△君の作」と書くのには閉口する。

そういう訳で、できるだけ初歩的な段階から、理解しやすい入門書を読みたいという人には向いているが、本としてはやや平易すぎるのでお勧め度は☆三つである。

とは言っても読めば読んだなりに発見はあって、それは正月の句として紹介してあった以下の句による。

 

 

 

 

注:以下、尾籠な話が始まりますよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元日や餅で押し出す去年糞

 

 

 

何と!

これは!

ビートたけしのオールナイト・ニッポン」の開始第一声として知られている「元日や餅で押し出す二年糞」の元ネタではないか!

と驚いた。

今でも「元日や~」で検索してみるとANN関連の話題が多いが、桂三木助が落語の中で言っていたという説もあるので、落語経由で高田文夫からビートたけしへと伝わったのかもしれない。

 

 

昨年、三代目桂三木助の落語全集CDが発売されている

のだが、1958(昭和33年)1月31日にNHKラジオで放送された

『蛇含草』という落語で「元日や餅で突き出す去年グソ」という

一節があったのである。目からウロコが落ちる思いがした。

伝説の深夜番組、『ビートたけしオールナイトニッポン』の

第1回放送(1981年1月1日)でのたけしの第一声が

元旦や餅で押し出す二年グソ」だったのだ。

この文句はあまりにも有名で、リスナーの間でも語り草に

なっていたのだが、たけしのオリジナルではなかったのですね。

おそらく、落語家や芸人のなかでシャレとして連綿と使われてきた文句

なのでしょう。浅草芸人『たけし』の一面を見る思いである。

 

http://occhinu.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-4561.html

 

 

さらにしつこく調べてみると、この句は金子兜太の父親の句であるという。

 

 

 僕の父も、俳句が趣味だった。毎年、正月元日になると「元日や 餅で押し出す 去年糞」と言っていたのが、子ども心に忘れられない。そうしたら、それは金子さんのお父さんの句であることが、今回判明した。

 

http://www.akai-shinbunten.net/Main/chita/genki/genki278.html

 

 

この本の中では、父親であるとは書いておらず(書けばいいのに)、単に「埼玉は秩父山峡の老医・金子伊昔紅」としか書いていない(p.88)。

そういう訳で気づきにくいが、世の多くの人が「ビートたけしの名言」と考えている句は、実は金子兜太のお父さんの作なのであった。無名の誰かが、ひと知れず有名人に与えた影響ということでいうと、これはかなり大きな部類に入るのではないだろうか。

 

 

(追記:この俳句にはさらに先例があり、野雪(嵐雪の弟子)によるものらしい)

 

www.wadamune.jp