映画短評集成:その5

 

 

この映画短評でしばしば出てくる感想が「音楽が無ければよかった」である。ここ数年、「なぜ音楽を付ける必要があるのか」と思うような、余計な付属品としての映画音楽が増えたように感じられる。DVD化、ブルーレイ化の際に「音楽抜き」という選択肢を加えるメーカーは出てこないと思うが、もしやろうという試みでもあれば大いに支持したい。

 

ブリット

ブリット スペシャル・エディション [DVD]

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 最近、辛口の酒が少ないとお嘆きの貴兄に…、と言いたくなる渋さ。

そして音楽が出しゃばらず(ラロ・シフリン)、余計な脇役もなく、女だって刺身のツマ程度にしかうるさくない。

 


ドライヴ

ドライヴ [DVD]

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 冒頭のカーシーンが良く、全体に寡黙で台詞が簡潔、音楽も控えめ、そして隣の奥さんがかわいい。
しかし、後半は非常に古いタイプの股旅物、やくざ映画のヒーローそのもので、別れの電話など興ざめ。うーん残念。


 

逃走迷路

 ラストで語られてしまうことの多い映画だが、前半の牧場(プール付近)でのやりとり、森の中の一軒家での会話、サーカス団の人々との出会いなど、前半もかなり良い。
もちろん後半もいいし、自由の女神像に行く前の映画館の場面だっていいし、その少し前の舞踏会の場面もいい。

こういう風に場所がコロコロ変わって、話がコロコロ転回するタイプの話が好きだ。

 

 

アウトレイジ ビヨンド

アウトレイジ ビヨンド [DVD]

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 皆が皆を裏切って、最後にはハレーションのような真っ白感だけが残るような映画だった。

仁義なき戦い」がシリーズを重ねるごとにそうなっていった「あの空しさ」をニ作で再現してしまったかのよう。
二作といえば007シリーズの「カジノ・ロワイヤル」「慰めの報酬」のような前後編という感もあり。
全編が「女の出る幕」でない作品だったので、次は女だらけの作品でもよいかもしれない。

 


ニーチェの馬

ニーチェの馬 [DVD]

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 「ニーチェの馬」というタイトルは間違いで、「風が強く吹いている」か「狂風世界」が正しいのではないかと思った。

 

 

デーヴ

デーヴ [DVD]

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 久しぶりにいかにも映画らしい映画を観たような気がする。

明らかに悪として出てくる人物が実は善で、善と思われていたものは悪で、という展開がいい。会話でのみ話題になり、終盤で初めて顔を見せる副大統領もいい味。

ケヴィン・スペイシーベン・キングズレーは似ていると思った。恋愛映画というレッテルが貼られていないが恋愛ものでもある。

 

 

ロボット

ロボット [DVD]

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 何だか妙に大味で、予告編を見て「すげー!」と感じた所がハイライトだったような気がする。
悪魔とはすなわち人間で、神とはすなわち人間で、ロボットとはすなわち人間のことだと思った。
鉄腕アトムフランケンシュタインは偉大な作品だと再認識した。

 

 

ゴモラ

ゴモラ [DVD]

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 暴力を描くのは意外に簡単というか、安直に映画を作る方法としては一番よいのかもしれない。

「社会派」風で「生や死」を描けるし、深刻ぶった問題提起風のポーズをとることもできるし、殺人シーンは観客の興味を惹けるし、それが唐突で構わないものだし、あっというようなアイディアもどんでん返しも必要ないし、落ちもストーリーも人物描写もさほど必要がないし。しかしこの種の映画を観終えた時の何ともいえないスッキリした感覚は何でしょ?別に物事が解決したわけでもないのに。

 


 とんねるずのみなさんのおかげでした 博士と助手 細かすぎて伝わらないモノマネ選手権

 「視聴者がザッピングする(=飽きる)スピードを越えろ」という難しい課題を越えた稀有な例のひとつではないか。

演者を落とすタイミングの「間」には、音楽番組よりも高度な音楽性があるし、落語家が自画自賛する「間」よりずっとスマートで見事。


 
俺たちニュースキャスター

俺たちニュースキャスター [DVD]

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 英エンパイア誌の読者投票による「最高に面白いコメディ映画50本(The 50 Funniest Comedies Ever)」で2位にランクインしていたので観てみた。最初の15分は途中でやめようと何度も思ったが、慣れてくるとずーっと均等に面白さが続くので楽しい。
しかも特典映像のNG集まで面白い。カットしなければよかったのにと思う場面や展開、アイディア、台詞多数。 

 


アザーズ

アザーズ [DVD]

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 「音がする」「声が聞こえる」「過去に何かありそう」など、誰でも知っている程度のごくごく普通の「お化けやしき物」の展開でも、上手にサスペンスを盛り上げていく前半がとても良かった。

中盤で夫が出てくるのも意外だし、後半もダレずに綺麗に終ってくれて良かった。

 


アレクサンドリア

アレクサンドリア [DVD]

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 ほとんどヤクザ映画のようなユダヤvsキリスト教の争いが生々しい迫力を持って描かれているし、静かなサスペンスもあるし、恋愛映画としても見ることもできるし、一人の女性の半生記風でもあるし、美術や衣装は美しいし、全体に快適なテンポで話が進むし、レイチェル・ワイズは美人だし、美点が多い映画。
しかし、あんまり世間的には受けないんだろうなということもよく分かる。
天文学的な謎の部分もいいし、登場人物それぞれの立場や考え方にも筋が通っている。

 

 

マルクスの二挺拳銃 特別版/マルクス兄弟デパート騒動

マルクスの二挺拳銃 特別版/マルクス兄弟デパート騒動 特別版 [DVD]

マルクスの二挺拳銃 特別版/マルクス兄弟デパート騒動 特別版 [DVD]

 

 デパート騒動の方だけ再見。ハーポとチコの毎度おなじみの演奏場面が妙に新鮮だった。この味は他の映画にはない。おまけの「古きよき時代」という短編が意外とハイセンスで面白かった。

 


アダムス・ファミリー2

アダムス・ファミリー2 [DVD]

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 コンパクトでテンポよく、役者が役にぴったり合っている。
ほどほどにブラックで、しかし家族愛に満ちている。
「主人公が努力して苦難を乗り越える」式の話に飽きた時に最適。

 

 

DOCUMENTARY of A DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on

 ドーム公演の楽屋裏は戦争物のような迫力だった。
「秒刻みのスケジュール」とはよく言われる言葉だが、本当に秒単位で何万人を相手のパフォーマンスをするというのは凄い。
死に物狂いになって「アイドル」をギリギリでこなしている子もいれば、しれっとこなしている子も大勢いるし、「演出家になりたいな」という子もいる。
他は震災がらみと謹慎がらみの話題。近い過去を振り返ってみる事後インタビューが挟み込まれる構成もいい。テンポがよく退屈しなかった。

 

 

 

今回のまとめ

 

今回、一番お勧めしたい作品は「デーヴ」で、老若男女を問わずなるべく予備知識なしでサラッと観てほしい。

次点は「逃走迷路」で、ヒッチコック映画というと「めまい」「サイコ」「鳥」「北北西に~」あたりが代表作ということになるだろう。「逃走迷路」は「北北西に~」タイプの話で、十分おきに舞台が変転するのでせっかちなタイプの人にはお勧めする。

私はモロにこの傾向がツボで、昔から観るたびに「いいなあ」と思う。好きな人には同じ傾向の作品として「海外特派員」も勧めておきたい。