今週のお題「最近おもしろかった本」
最近読んだ本の中で、これは一応のラインより上に行っている!と思えるものはさほどないので、まあまあの本、読みかけの本なども含めて何冊か挙げてみたい。
一冊目は「豆腐百珍」。
江戸時代にベストセラーになったという、豆腐料理を百種類紹介した「豆腐百珍」という本があって、それを実際に作ってみたという本。
中には単に焼いただけという、今で言う豆腐ステーキに過ぎない料理もあるが、寒天と豆腐をミックスした玲瓏豆腐など、芸術的と思えるほどの料理もある。
二冊目は「本の雑誌」。
40周年記念ということで買った。
40年間のベストということで、様々なジャンルのベスト40があっちにもこっちにもズラズラ並んで壮観である。久々に読んでみると、文体そのものが古くなってしまっていて、その辺の素人のブログより劣化してしまっている書き手もいる。
巻末には「椎名誠の十冊」が選ばれていて、数百冊の中からの十冊となるとやはり中身が濃い。
椎名誠では「犬の系譜」のような穏やかな小説か、「武装島田倉庫」系列のゴチャゴチャしたSF系列のものをずっと読んでいる。
三冊目は「MASTERキートン Reマスター」という、「MASTERキートン」の20年ぶりの続編。
もともとの「MASTERキートン」は、それこそ40年規模で考えてもベスト級の傑作で、知らない人のために解説すると主人公キートンは考古学者で保険調査員もやっている上に、元は英国軍のSAS(英国特殊空挺部隊)で指導教官をしていたという人物である。
基本的には一話完結タイプの集積で、簡単に言うと「ゴルゴ13」と「ブラックジャック」と「こち亀」の良いエピソードの良い部分だけを足して、現代の海外ドラマ風のスマートな語り口にしたような味わいが毎回ある。
もっと単純に言うと、国際謀略サスペンスと人情物が融合したような趣の短編集である。
MASTERキートン 1 完全版 (ビッグコミックススペシャル)
- 作者: 浦沢直樹,勝鹿北星,長崎尚志
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2011/08/30
- メディア: コミック
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主人公は様々な依頼や難事件を次々に解決する上に、性格も「気は優しくて力持ち」といった感じなのだが、そうなると今度は何でもできるスーパーマンになってしまう。
その辺りの事情を書き手が後から危惧したのかどうか、連作短編化して巻数が進むに連れて私生活ではほとんど報われない、夢も希望も打ち砕かれてばかりという厳しい展開になってくる。
その辺が続編ではどうなっているのか?という点が一つの読みどころでもあるので、未読の方は正編をきちんと読んでから「Reマスター」に進むことをお勧めする。
四冊目は「マルクスの三つの顔」。
四方田犬彦は映画や漫画の批評が本筋の仕事だが、ただしそれ以外にも時々変ったテーマの本を出す(「かわいい論」とか「引越し人生」とか「摩滅の賦」とか)。
この本は「マルクス」つながりで「自省録」のマルクス・アウレリウス、「資本論」のカール・マルクス、それにマルクス兄弟について書いた長いエッセーである。
- 作者: マルクスアウレーリウス,神谷美恵子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/02/16
- メディア: 文庫
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これほど三者三様のマルクスを並べて一冊の本の中で論じてしまうという発想も力量も、他の誰にもないような種類のユニークな本で、それこそキートンのような人物が読むか書くかするような類の本である。
今のところマルクス・アウレリウスの章だけを読み終えたが、ここだけで既にハドリアヌス帝、ルキアノス、初期キリスト教などについてあれこれと論じられるので、ある程度は予備知識がないときつい。
マルクス兄弟に関しても、ある程度の予備知識のない人には厳しい本かもしれない。
他には「南州残影」「旧聞日本橋」「評伝正岡子規」などを読んでいる。
上記の中で広く人に勧めるとしたら「MASTERキートン」で、まずは正編を全巻読むべきである。
MASTERキートン 完全版 コミック 全12巻完結セット (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)
- 作者: 浦沢直樹
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/06/29
- メディア: コミック
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それはもう読んだという人には、キートンに匹敵するくらい幅広く雑多で深い話題を扱っているからという理由で「マルクスの三つの顔」を推す。
長い本は嫌だという向きには「自省録」が良いと思う。これも名著の中の名著である。