今月も「短歌の目」に参加したので、製作過程や感想や意図などを書いてみたい。
今回は最終的な完成作品を、解説の最後に太字で置いてみた。
1.青
青イ太陽ノ国カラノ使イキテ青イ目ノ穴カラ光ガ
最初は「青いものだらけの国」というイメージがあって、これで何かできないかと考えた。
しかしどうも上手く行かないので、以前作った幻想絵画風の、
頭頂より発つ気球は吊り上げよ心臓胃腸腿肉骨灰
これ↑を手直しして、後半を「赤い動脈青い静脈」にしてみた。
頭頂より旅立つ気球の吊り上げる赤い動脈青い静脈
頭頂より旅立つ気球は吊り上げよ赤い動脈青い静脈◎
頭の天辺からスーッと骨や内臓や血管が抜けていくようなイメージだが、どうも説明不足で、失敗したような気がしている。
頭頂より旅立つ気球は吊り上げよ赤い動脈青い静脈
2.梅
体幹を支える片手が震えている 梅の実は信念のごとく種を抱えて
道端のビニール袋の白い粉 梅の実は信念のごとく種を抱える
「梅の実は種がけっこう大きい」と思ったので、ここから「種=信念」という発想に到った。
最初は上の句に、下の句と関係ないことを書こうとしたが、内容がうまく離れないし、かといって説明臭いのも嫌なので苦労した。
紀州より背中を丸め信条のごと種を抱える一粒の梅
背を丸め信条のごとく種を抱く袋入り十五粒の梅たち
背を丸め信条のごとく種を抱く袋入り梅たち十五粒
背を丸め信条のごとく種を抱く袋入りの梅十五粒
背を丸め信条のごと梅の実は種を抱いて袋に入る
紀州より背を丸めつつ梅の実は信条のごとく種を抱いて
「袋」「十五粒」「紀州」といった言葉をカットして、冒頭を「熟れながら背を丸めつ」として完成。「実は」にするか「実が」にするかで悩んだ。
熟れながら背を丸めつつ梅の実が信条のごとく種を抱いて
3.傘
筋トレのしすぎで震える手で◎◎◎
傘を持つ手が震えて「筋トレのやり過ぎ」と
最初に思いついたのは、
「傘を持つ手が震える→しかしそれは心情の表れではなく、単に筋トレのやり過ぎ」
というイメージだが、説明くさいというより単なる説明で終ってしまいそうなのでやめた。
もっと読み手に解釈を委ねてみたいし、余白を多く取りたい。
次に「傘地蔵」からエスカレートして大きくなっていって、「傘大仏像」で終るのはどうかなと考えた。
これは表記を漢字だけにして、説明をしない方が上手く行くように思えた。
傘地蔵傘風神雷神図傘仁王像傘大仏像
傘地蔵 傘五百羅漢 傘仁王像 傘大仏像
「傘地蔵に傘をかぶせたお爺さんが、調子に乗ってエスカレートしてゆく話」としてみてもいいし、単に「傘をかぶせる対象がだんだん大きくなっていく」という点だけでも、ちょっとした面白さを感じてもらえればそれはそれでいいかなという感じ。
傘地蔵 傘五百羅漢 傘仁王 傘菩薩像 傘大仏像
4.曲がり角
記憶の道の曲がり角
曲がり角三回曲がるとわからない五回曲がれば新世界
曲がり角三回曲がると戻れない五回曲がれば新世界
古い記憶を引っ張り出す時に、「記憶の曲がり角を曲がり損ねる=思い出せない」ということを書こうと思ったのだが、やはり説明的なので中止。
道に迷って、車で数回ほど曲がって、まったく知らない場所に迷い込むことが年に数回あるので、そういう感覚を書こうと思った。
別に何の変哲もない、そう遠くない場所でも見慣れないと異様に思える。そういう感覚を少し大げさだが「新世界」と書いてみた。
回数を「五回」ではなく「七回」にした方がよいように思えたので、最終的に「七回」とした。
曲がり角三回曲がると戻れない七回曲がれば新世界
5.しそ
悪意ある虻と嘘とが寄り来たる6月はしその葉を刻めり
悪意ある虻と嘘とが寄り添える6月はしその葉を刻めり
上の二つのどちらかでやや迷った程度で、これはすぐに完成した。
この歌を考えていた頃、ちょっとウソっぽい話をする人と仕事の関係で何度かメールのやり取りをして、「嫌だな~」と思ったことが影響している。
何らかの不平不満や葛藤があって、その心情を動作にこめて何かを「刻む」というのは、割とありがちではないかと思ったが、たまたま小道具としての「紫蘇」が上手く嵌まってスラッと流れるように完成してしまった。
一首の切れ目がはっきりしないなという気はしたものの、
A:悪意ある虻と嘘とが寄り来たる。 6月はしその葉を刻めり。
B:「悪意ある虻と嘘とが寄り来たる6月」は、しその葉を刻めり。
ABどちらでも大した違いはないので、あまりはっきりさせる必要もないかと思ってそのままにした。
この歌からは女性的な印象を受けると思う。詠み手の性別を当てよという問題が出たら9割以上は女性の詠み手であると判断しそうな歌である。
しかし男であっても紫蘇くらいは刻むし料理もするので、このレベルの女性的な短歌であれば割と詠めるものだなという発見があった。私は「男性に特有の感覚」を信じていない程度には「女性に特有の感覚」も信じていない。
悪意ある虻と嘘とが寄り来たる6月はしその葉を刻めり
【後編に続く】