「白い巨塔」

1966年の白黒映画の方の「白い巨塔」を観た。教授の椅子をめぐるドス黒い権力闘争のドラマで、若い頃だったら「医学の世界は何て醜いんだ!」「この世は闇なのか!」と社会正義の精神に目覚めてしまいそう。

 

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しかし今これを観ると、むしろ金や権力を使いまくり、恥も外聞もなく権威や名声を求める人々の側に自分の姿を見てしまう。いかにも研究一筋という助教授や、青空を見上げて正しい大学病院のあり方を夢見るお嬢さんの姿には、かえって落ちつかないものを感じる。何となくソワソワして、目を合わせたくないような気分に追い込まれる。

逆に汗をダラダラかいて「金や金や、金やで~!」と叫ぶタコ坊主おじさんや、二大派閥を手玉にとるコウモリ的な人物、バレバレなのに必死こいて偽証する小心者、金の切れ目が縁の切れ目という態度まる出しのバーの女といった典型的な小悪党たちには、まったくホッとさせられる。

「仁義なき戦い」シリーズを観た時にも思ったことだが、フィクションの中での醜くて汚い人間の姿は、かえって心に安らぎをもたらしてくれる。この人たちの生息する世界は坂口安吾風にいうなら「わが心のふるさと」とでも呼びたい世界である。

この映画はまるでピストルの弾の代りに金品でドンパチをする「ゴッドファーザー」のようでもある。貧しい生まれの人間が成り上がって権力を手にし、権力の毒に染まってゆく点、権力の維持には必ず血縁が絡む点、グロい画面がいかにも「人間の本音」を表しているような点、死が日常である舞台、などなど。

自分も一生に一度くらいは、高級料亭で密談などしてみたいものだ、とも思った。そこで「何かのヒント」の読者の皆さんと「高級料亭オフ」を開催してみたい。出席希望者は全員ダークスーツ姿で老人の扮装をして、黒い鞄に現金を詰めて参加していただく。参加費の目安はざっと数百万円ほどで……。まあ、普通に貰うのも気が引けますし、といってお返しするという訳にも参りませんから「一応、預かっておく」という形で……。グヒヒ……。

 

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