「西部戦線異状なし 」

 

 

「ウィストン・チャーチル」がちょっと半端な映画だったので、いろいろと疑問が残った。なぜイギリス人たちは愛国心にあれほど燃えているのか、なぜドイツ軍はメタクソに強いのか、火薬や弾薬はどのくらいあるのか、戦況の見通しを双方でどのように考えているのか、などなど。

しかし第二次世界大戦についてよく理解するには第一次世界大戦を知らなければならず、さらにその前の戦争も理解せねばならず、と遡っていくときりがない。

そこでドイツ側から見た第一次世界大戦を描いた本作を観てみた。ラストが有名な映画なので、おそらく高校生くらいの頃から何となく知っている気でいたのだが、今になって観てみるとやはり名作で、学校の先生にちょっと唆されただけで「お国のために!」「英雄になるんだ!」と盛り上がる生徒たちの姿には「昔のこと」として片付けられない、笑うに笑えない種類の滑稽さがある。

 

西部戦線異状なし [Blu-ray]

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志願兵として戦場の最前線に送られた少年兵(まだ十代)は現実の戦争を知って、大きな衝撃を受ける。何しろ機関銃が待っているのに全力で何十人、何百人が走って突撃してくるので、それを殺す方も殺される方も正気ではいられない。ちょっと気を抜くと狙撃されるし、爆弾は降ってくるし、食糧も乏しいし、戦線は前には進まない。あっという間に死んでしまう友人、精神的におかしくなる友人、片足を失う友人が出て、やがて主人公も負傷して、いったんは故郷に戻る。

ここで戦場の現実を知らない故郷の人びととのギャップが描かれていて、映画を観ている自分は実際の戦場を知らないにもかかわらず、落差そのものは感じられる。ほんの数歳の年齢差しかない下級生たちに対して、絶句してしまう主人公、この場面の暗い目つきが非常によい。

この主人公はしばらく前に話題になった清宮選手を思わせるので、私としては何となく映画を見ながら「がんばれ清宮選手!」と応援したくなるのであった。しかし主人公自身が通ってきた道とはいえ、愛国心と名誉欲に満ち満ちてパンパンになって、いまにも破裂しそうな下の世代はアホにしか見えないし、年寄りは戦場を知らずにまるでゲームのように楽しげに戦況を語っている。

結局、非人間的な地獄でありながらかえって戦場にしか居場所がなくなっているという逆説も描かれていて、平和な街よりも危険な戦場の方に真の仲間、心の友が残っている。ここだけが救いだが、それもほんの僅かな間だけのことである。

 

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ところでツイッターで戦争映画について発言している人がいて、その人が言うには「大抵の戦争映画は政治や経済を描いておらず、戦闘場面が多すぎる。それでは戦闘映画だ」とのこと。

本作に限っていうなら戦争映画というより青春映画的である(注)。もちろん当時は青春映画を撮るつもりで作ってはいないと思うが、戦争映画に戦闘映画的な側面があるのと同じくらいこれは青春映画でもあって、そういった面はおそらく後々になって少しずつ発見され学ばれていったのではないだろうか。

 

西部戦線異状なし (新潮文庫)

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(注)原作の小説は日本でも海外でも、今ではほとんど読まれていないようなので、その影響がどのくらいあったのかは考慮しないとして。