「ANNA/アナ」

 

 

悲しい過去を背負った、モデル業もこなす凄腕の女スパイ!

これはもう自分の好みのド真ん中の作品で、しかも基本は昔ながらのKGB vs CIAという構図のままなので分かりやすい。

分かりやすいと言えば冒頭、ほとんど断片的なセリフしかないまま、ロシアに潜伏していた複数のCIA関係者が始末されてしまう。いったい何が起こったのか?という疑問を感じる間を与えずに女スパイ一代記が始まる。

 

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で、あれこれあって「!?」となるたびに話が「三年前」「半年前」といった具合に種明かしがされる構成なので、そのたびに「!」となる。これが中盤も終盤も、さらにその先でも続くため、そのテンポ自体が快適で楽しい。複雑になった事態をその都度、いったんシンプル化してくれるので観やすい。

冒頭の大きな悲劇の真相が語られるのはかなり後になってからだが、にもかかわらず明解に本筋と結びつくので気持ちいい。

ところで主人公の女スパイは、スカウトされてKGBに入るものの、その後でどんな訓練を受けたのか、一切が省略されている。考えてみるとスパイものはほとんど皆、必死の訓練などは描写されない(「レッド・スパロー」は少し出てきたか)。本作でも先輩の上官が訓練の記憶を語る程度である。これに比べると「特訓が足りない」「努力が足りない」と非難されることもある「鬼滅の刃」はかなりの修業を積んでいる。

 

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そういえば「ハイドリヒを撃て!」で悲しい役を演じていたキリアン・マーフィーは本作にも出ていて、CIAで出世しているので「あの人が助かって、CIAに入ったんだ!」と勝手に空想して応援したくなるのであった(ちなみにこの人はクリストファー・ノーランの新作「オッペンハイマー」で主人公を演じるとのこと)。

この人以外には主人公の関係者が5、6人ほどしかいない話で、それがどの人物との関係も「こういう風になればいいなあ」と観客が考える通りに、最終的にはうまくまとまる。最後の最後に主人公に手を貸すあの人など、拍手したくなるほどの名脇役である。