「そして誰もいなくなった」

 

 

BBC製作のドラマ「そして誰もいなくなった」は1話平均50分ほどで全3話なので、一気に見ようと思えばできなくもない長さである。自分はそれを二日に分けて見た(勿体ない気がしたので)。

何しろ原作を夢中で読んだのがかれこれ三十年も前になるため、細かい点はきれいさっぱり忘れていて、そうなるとある程度は先がわかっていてもハラハラできる。

それに子供のころは「悪いことをした人が罰せられるのは当然」としか考えないものだが、大人になると「お前には隠している罪状があるやんけ!順番に殺してやるから覚悟しろ!」なんて言われてドキッとしない人はいないのではないだろうか。そういう訳で、この作品の登場人物に降りかかる出来事がさほど他人事とも思えない。

また、通常なら推理小説の最後に「犯人」としての正体を現す人物ばかりがあっちこっちから集められてきての開幕になるので、何というか皆が「ラスボス級の加害者、かつ犠牲者」というひねった側面もよく見える。

 

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で、話としては十人の人物が孤島に集められて人物紹介がおおむね終わったかなと思う間もなくまず一人が殺されて、右往左往しているうちに二人目が殺されて、「あいつが怪しい」なんて言ってると当の人物が殺されて、といったペースで進むので、退屈する暇がない。

トリックがどうこうというより、特異な状況と、

「犯人がこの中にいるのかどうか?」

「この中にいないとしたら誰なのか?」

「どうやって殺しているのか?」

「次に殺されるのは誰なのか?」

「どのように行動するのが最善なのか?」

「誰かと手を組むべきなのか?」

といった疑問点のあれこれがずっと解消されないまま人数が減り続ける。減った分だけ謎がますます濃度を増して、相互の疑心暗鬼度がさらに高まることになる。大抵のミステリは冒頭に出てくる謎の魅力が次第に薄くなってしまうのに対して、本作は先に進めば進むほど何もかもが不可解になるところがよい。

 

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中でも最も大きな謎は、

「人数が減り続けると最終的にはどうなる?」

という点だが、あらかじめタイトルに「そして誰もいなくなった」とあるだけに、余計にじれったくなるのが人情というものだ。

さすがに三十年前に読んだといっても、最後の一人がどういう行動をとるか、真犯人は誰で、真相はどのように明らかになるかという勘所の記憶は残っているのだが、このドラマ版は終幕の部分の演出がやや異なる。また細部の説明を端折っている部分もあるので、詳しく知りたい人は原作を読んで確かめるしかない。

 

乱視読者の帰還

乱視読者の帰還

 

 

原作といえば「乱視読者の帰還」の中に「そして誰もいなくなった」論があったのを思い出した。重要人物の心理描写がいかに細かく考え抜かれているかを分析した批評で、これも十数年ぶりに読み返してみた。小説の描写は当然ながらドラマでは描ききれない部分もかなりあって、それを論理的に読み解いていくうちに誤訳まで浮かび上がってきたりして、実にスリリングである。